ばかばかしいほど安い講師料でも、肩書きとして名刺に書き入れたいという実務家や、大学の専任教員のポストを求めるために、土岐のように教歴をつけたいというオーバー・ドクターが多いので、需給がそれなりにマッチしている。金井が譲ってくれた真意は、土岐に恩を売って東亜クラブの仕事で土岐を使いやすくするということと、非常勤講師という肩書きが予想したほど効力をもたず、費用対効果を斟酌すると費用の方が大きかったということだろうと土岐は思う。金井にとってそれが一石二鳥であったか、一石三鳥であったかはともかく、土岐にしてみれば、教歴を作ることができる上に、大学の図書館を利用できるので、非常に貴重なオファーだった。それに安月給の土岐には土曜日が半日つぶれるにしても、月二万円ほどの講師料でもありがたかった。
土岐は鈴村の問に答える。
「履歴書と業績書はすでに文科省に提出してあるので、あとは審査待ちです」
「そう。通るといいね」
と鈴村は感情のまったくこもっていない言い方をする。
「岩槻先生の話では、最近の文科省の審査は以前と比べるとずいぶん緩くなったということで、・・・これも規制緩和の一環ではないかということで・・・新増設を簡単に認める代わりに、大学は自己責任で、・・・ということのようです。
『あんな、論文もろくに書いていないようなやつが、よく通ったな』
といつも、他大学で知っている若手がいて、認可されたときなんか、岩槻先生は、そうおしゃってました。それに象牙の塔にこもっていて、実社会を知らない学者馬鹿だけで大学教育を行う弊害を見直すという観点から、実務家を大学教育に生かそうということで、論文をまったく書いていない人でも大学教員として適格としているようです」
「ふうん。それじゃ、俺なんかも、申請すれば通るかな」
と鈴村は真顔で聞いてくる。
「鈴村さんは、わたしと違って、業績が膨大でしょ」
と土岐は机の周りのダンボールに詰め込まれている簡易製本の印刷物やダブル・クリップで留めてあるコピーの束を見渡しながら言った。
「たしかにね。かかわった報告書は百本を越えるけど、ほとんどオーガナイザーとしてだからね。実質的に書いたのはその半分もないと思うよ。それに内容的には、研究論文とはちょっと言いがたいしね。論文と言うよりはレポートみたいなもんだし・・・」
土岐は鈴村の問に答える。
「履歴書と業績書はすでに文科省に提出してあるので、あとは審査待ちです」
「そう。通るといいね」
と鈴村は感情のまったくこもっていない言い方をする。
「岩槻先生の話では、最近の文科省の審査は以前と比べるとずいぶん緩くなったということで、・・・これも規制緩和の一環ではないかということで・・・新増設を簡単に認める代わりに、大学は自己責任で、・・・ということのようです。
『あんな、論文もろくに書いていないようなやつが、よく通ったな』
といつも、他大学で知っている若手がいて、認可されたときなんか、岩槻先生は、そうおしゃってました。それに象牙の塔にこもっていて、実社会を知らない学者馬鹿だけで大学教育を行う弊害を見直すという観点から、実務家を大学教育に生かそうということで、論文をまったく書いていない人でも大学教員として適格としているようです」
「ふうん。それじゃ、俺なんかも、申請すれば通るかな」
と鈴村は真顔で聞いてくる。
「鈴村さんは、わたしと違って、業績が膨大でしょ」
と土岐は机の周りのダンボールに詰め込まれている簡易製本の印刷物やダブル・クリップで留めてあるコピーの束を見渡しながら言った。
「たしかにね。かかわった報告書は百本を越えるけど、ほとんどオーガナイザーとしてだからね。実質的に書いたのはその半分もないと思うよ。それに内容的には、研究論文とはちょっと言いがたいしね。論文と言うよりはレポートみたいなもんだし・・・」