「実は、この種の契約書には雛形がありまして、その都度、適当に書き変えるんですが・・・そういう意味で、土岐君をお借りするだけなので、ちょっと仰々しくて、実態とは異なる契約書にはなっているとは思うんですが、・・・一応、社外契約の担当者に事情を説明して、チェックさせたところ、とくに問題はないだろうということで・・・」
と鈴村がソファーを軋ませながら、営業マンのような説明をする。土岐は、扶桑総研の管理職は営業マンでもあるというような自嘲めいた話を以前鈴村から聞いたことがあった。
「あまりお邪魔してもご迷惑だと思いますので、われわれはこれで失礼します」
と砂田が無表情に立ち上がろうとした。そこに福原がアイスコーヒーをトレイに乗せて持ってきた。
「まあまあ、わがクラブのサロンで淹れた本格コーヒーでも召し上がってください」
と金井が砂田を押しとどめた。砂田は言われるままに座りなおして、刈り上げた後頭部をさすりながら、さっそくストローの紙袋を千切った。アイスコーヒーは細めのゴブレットに淹れられていた。へそのあるキュービックアイスが縦に三個重ねられ、コーヒーの琥珀の液体はそれらのキュービックアイスに絡まる程度でわずかしかない。土岐はミルクもシロップも入れずに、訪問客を差し置いて最初に一息で飲み干してしまった。傍らで、ストローの紙袋を破りながら、金井がたしなめるような視線を土岐の方に流してきた。鈴村はミルクとシロップを最後の一滴までいとおしむように全部入れて、ストローをマドラーがわりにして、やはり一息で飲み干した。砂田がストローで音を立てて飲み干すのを待って、鈴村がソファーを揺り動かすようにして立ち上がった。その時、砂田が金井に申し出た。
「ちょっと、仕事の詳細について、土岐君と話をしたいので、彼を数分、お借りできますか?」
「そうですか、どうぞ、どうぞ。今日のところは急ぎの仕事もないですし、・・・なんだったら、隣のサロンでいかがですか?」
と気味の悪いほど金井の愛想がいい。金井は自分の席に腰かけてこちらをそれとなくうかがっている福原に目配せした。
「福原さん、このコーヒーをサロンに移してもらえますか?」
福原は待ち構えていたように立ちあがって、
「いえ、入れ直します」
と言いながらサロンの厨房に消えた。
「それでは、わたしのほうはこれで」
と鈴村がソファーを軋ませながら、営業マンのような説明をする。土岐は、扶桑総研の管理職は営業マンでもあるというような自嘲めいた話を以前鈴村から聞いたことがあった。
「あまりお邪魔してもご迷惑だと思いますので、われわれはこれで失礼します」
と砂田が無表情に立ち上がろうとした。そこに福原がアイスコーヒーをトレイに乗せて持ってきた。
「まあまあ、わがクラブのサロンで淹れた本格コーヒーでも召し上がってください」
と金井が砂田を押しとどめた。砂田は言われるままに座りなおして、刈り上げた後頭部をさすりながら、さっそくストローの紙袋を千切った。アイスコーヒーは細めのゴブレットに淹れられていた。へそのあるキュービックアイスが縦に三個重ねられ、コーヒーの琥珀の液体はそれらのキュービックアイスに絡まる程度でわずかしかない。土岐はミルクもシロップも入れずに、訪問客を差し置いて最初に一息で飲み干してしまった。傍らで、ストローの紙袋を破りながら、金井がたしなめるような視線を土岐の方に流してきた。鈴村はミルクとシロップを最後の一滴までいとおしむように全部入れて、ストローをマドラーがわりにして、やはり一息で飲み干した。砂田がストローで音を立てて飲み干すのを待って、鈴村がソファーを揺り動かすようにして立ち上がった。その時、砂田が金井に申し出た。
「ちょっと、仕事の詳細について、土岐君と話をしたいので、彼を数分、お借りできますか?」
「そうですか、どうぞ、どうぞ。今日のところは急ぎの仕事もないですし、・・・なんだったら、隣のサロンでいかがですか?」
と気味の悪いほど金井の愛想がいい。金井は自分の席に腰かけてこちらをそれとなくうかがっている福原に目配せした。
「福原さん、このコーヒーをサロンに移してもらえますか?」
福原は待ち構えていたように立ちあがって、
「いえ、入れ直します」
と言いながらサロンの厨房に消えた。
「それでは、わたしのほうはこれで」