「東亜クラブの事務局長をしております、金井と申します」
と一枚の名刺を鈴村に差し出して、鈴村が懐から名刺を取り出すのを待っている。
「扶桑総合研究所の鈴村と言います。こちらは、同僚の砂田と言います。本日はお忙しいところをお邪魔いたしまして、・・・」
と鈴村も名刺を差し出しながら、隣の痩身の砂田を紹介した。
「砂田と申します」
と砂田も扶桑総合研究所の同じロゴの入っている名刺をぎこちなく差し出した。
「さあ、どうぞ、お掛けください」
と金井がソファーを勧めたところに福原がハンカチで手を拭いながらトイレから戻ってきた。来客をみて、あわてて隣のサロンに珈琲を淹れに行った。土岐は、それを見届けるようにして立っていたが、金井が自分の隣に座るように指で合図した。はめ殺しの大きなガラス窓の隣に鈴村が深々と腰掛け、その隣に軽量の砂田がちょこんと座った。鈴村は腰をかけたまま上半身で伸びあがるようにして窓の外をのぞき込む。
「いい眺めですね。東京湾が一望できますね。レインボーブリッジが見えますね。・・・あそこの緑のこんもりしたウォーター・フロントは浜離宮ですか?」
とパレスサイド・パークビルの自室からの眺望と比較するように言う。
「ここに引っ越してきたばかりの頃は、窓の外を見て、感激したものですが・・・女房と同じで、もう見飽きました。それより、地震があると大揺れするので、肝を冷やします。それと、自宅の窓からこの事務所が見えるんですよ」
と金井は如才ない受け答えをする。砂田も鈴村越しに、腰をすこし浮かせて窓の外に目をやっている。
「ほう、ご自宅はどちらですか?」
と砂田は金井に聞くが、どうでもいいような心のない聴き方だ。
「お台場なんですよ。なんか、離れ小島の観光地みたいなところで、夜は寂しい所です。ここからぼんやりとではありますが、見えるんですよ」
と言いながら金井は首を捻って窓の外を見る。
「通勤に近くていいですね」
と砂田がぎこちない愛想笑いを込めて言う。
「それが取り柄です。ここから、辛うじて最寄駅が見えるんですよ」
「ほう、何という駅です?」
と鈴村も下界を覗き込む。
「竹芝という駅で、徒歩でここまで十分ちょっとです」
「ということは、ご自宅からの通勤時間はたった三十分ということですか?」
と砂田が素っ頓狂な声を上げる。
と一枚の名刺を鈴村に差し出して、鈴村が懐から名刺を取り出すのを待っている。
「扶桑総合研究所の鈴村と言います。こちらは、同僚の砂田と言います。本日はお忙しいところをお邪魔いたしまして、・・・」
と鈴村も名刺を差し出しながら、隣の痩身の砂田を紹介した。
「砂田と申します」
と砂田も扶桑総合研究所の同じロゴの入っている名刺をぎこちなく差し出した。
「さあ、どうぞ、お掛けください」
と金井がソファーを勧めたところに福原がハンカチで手を拭いながらトイレから戻ってきた。来客をみて、あわてて隣のサロンに珈琲を淹れに行った。土岐は、それを見届けるようにして立っていたが、金井が自分の隣に座るように指で合図した。はめ殺しの大きなガラス窓の隣に鈴村が深々と腰掛け、その隣に軽量の砂田がちょこんと座った。鈴村は腰をかけたまま上半身で伸びあがるようにして窓の外をのぞき込む。
「いい眺めですね。東京湾が一望できますね。レインボーブリッジが見えますね。・・・あそこの緑のこんもりしたウォーター・フロントは浜離宮ですか?」
とパレスサイド・パークビルの自室からの眺望と比較するように言う。
「ここに引っ越してきたばかりの頃は、窓の外を見て、感激したものですが・・・女房と同じで、もう見飽きました。それより、地震があると大揺れするので、肝を冷やします。それと、自宅の窓からこの事務所が見えるんですよ」
と金井は如才ない受け答えをする。砂田も鈴村越しに、腰をすこし浮かせて窓の外に目をやっている。
「ほう、ご自宅はどちらですか?」
と砂田は金井に聞くが、どうでもいいような心のない聴き方だ。
「お台場なんですよ。なんか、離れ小島の観光地みたいなところで、夜は寂しい所です。ここからぼんやりとではありますが、見えるんですよ」
と言いながら金井は首を捻って窓の外を見る。
「通勤に近くていいですね」
と砂田がぎこちない愛想笑いを込めて言う。
「それが取り柄です。ここから、辛うじて最寄駅が見えるんですよ」
「ほう、何という駅です?」
と鈴村も下界を覗き込む。
「竹芝という駅で、徒歩でここまで十分ちょっとです」
「ということは、ご自宅からの通勤時間はたった三十分ということですか?」
と砂田が素っ頓狂な声を上げる。