いつものように福原がお茶を用意してくれる。隣のサロンで淹れてくるのだが、親切というよりは、向かい合った席で、自分だけお茶を飲むのは気が引けるのだろう。二人が昼食を食べ始めると、金井が理事長室から戻ってきた。金井は1時近くになってから地下の飲食店に行く。1時近くになると混雑が解消されるからだ。
福原が食事をしながら、縁なし眼鏡のレンズをしきりにティッシュペーパーで拭いている。顔をしかめて、レンズを天井のLEDの蛍光灯に透かして見ている。土岐はお茶のお礼のつもりで声をかけた。
「眼鏡、見づらいんですか?」
福原が照れたように微笑む。
「なんか霞がかかっているみたいで・・・年なのかしら。年を取ると、白内障か緑内障のどっちかになるっているけど・・・」
土岐は意識してお世辞を言う。
「まだ、年ということはないでしょう」
福原が嬉しそうに笑う。
「ありがとう。でも、知らないうちに、そうなるみたいね」
「母は白内障なんです。テレビだけが趣味で・・・あんまり、かじりついてみているもんだから、眼医者に行くようにって、強く言ったんです。そしたら、白内障がかなり進行していて・・・」
と土岐には珍しく、プライバシーを語った。
「そう、・・・でも、手術は簡単みたいよ。すぐ良くなるって」
と福原は同情する。
「ええ、そうなんですけど、いま、お金がないもんで・・・」
と言いながら土岐は金井の方を見た。給料が安いことをあてこすって行ったわけではないが、金井の反応を見たかった。金井は聞いていないのか、興味がないのか、先刻から新聞を広げて見入っている。
1時近くになって、金井は専務理事と一緒に昼食に出かけた。毎日ではないが、専務理事から声を掛けて昼食に出かけることが多い。
午後二時ごろ、鈴村が砂田を伴って事務室にやってきた。砂田はくさびのように尖った顎で事務室を見回して、黒ずんだ大きな目で土岐に会釈した。
「こんちは」
「わざわざどうも、ご足労いただきまして・・・」
と土岐は受付で二人を出迎えた。
「いやあ、今回も仕事を請けてくれてありがとう」
とどこかぎこちなく、でもにこやかに土岐に話しかける砂田を制して、
「まだ、契約がすんでいないんで・・・」
と鈴村が土岐と砂田の間に割って入った。土岐は二人を、金井の机の傍らの応接セットに通した。金井は、そこに立って名刺を持って待っていた。
福原が食事をしながら、縁なし眼鏡のレンズをしきりにティッシュペーパーで拭いている。顔をしかめて、レンズを天井のLEDの蛍光灯に透かして見ている。土岐はお茶のお礼のつもりで声をかけた。
「眼鏡、見づらいんですか?」
福原が照れたように微笑む。
「なんか霞がかかっているみたいで・・・年なのかしら。年を取ると、白内障か緑内障のどっちかになるっているけど・・・」
土岐は意識してお世辞を言う。
「まだ、年ということはないでしょう」
福原が嬉しそうに笑う。
「ありがとう。でも、知らないうちに、そうなるみたいね」
「母は白内障なんです。テレビだけが趣味で・・・あんまり、かじりついてみているもんだから、眼医者に行くようにって、強く言ったんです。そしたら、白内障がかなり進行していて・・・」
と土岐には珍しく、プライバシーを語った。
「そう、・・・でも、手術は簡単みたいよ。すぐ良くなるって」
と福原は同情する。
「ええ、そうなんですけど、いま、お金がないもんで・・・」
と言いながら土岐は金井の方を見た。給料が安いことをあてこすって行ったわけではないが、金井の反応を見たかった。金井は聞いていないのか、興味がないのか、先刻から新聞を広げて見入っている。
1時近くになって、金井は専務理事と一緒に昼食に出かけた。毎日ではないが、専務理事から声を掛けて昼食に出かけることが多い。
午後二時ごろ、鈴村が砂田を伴って事務室にやってきた。砂田はくさびのように尖った顎で事務室を見回して、黒ずんだ大きな目で土岐に会釈した。
「こんちは」
「わざわざどうも、ご足労いただきまして・・・」
と土岐は受付で二人を出迎えた。
「いやあ、今回も仕事を請けてくれてありがとう」
とどこかぎこちなく、でもにこやかに土岐に話しかける砂田を制して、
「まだ、契約がすんでいないんで・・・」
と鈴村が土岐と砂田の間に割って入った。土岐は二人を、金井の机の傍らの応接セットに通した。金井は、そこに立って名刺を持って待っていた。