「東南アジアの小国の開発プロジェクトで、財務分析をやって欲しいと言うんです。来週末にでも出かけて、短くとも一週間程度はかかりそうなんです。そこで、わたしの身分は東亜クラブの研究員なんで、金井さんの昨日の提案にそって、わたしを使用するという随意契約を東亜クラブと結んでもらえないかともちかけましたら、とりあえず、今日の午後、ご相談かたがた、こちらにうかがいたい、というんですが、・・・いかがでしょうか」
 思案するいつもの癖で、右頬に右手の人差し指を当てて、金井は黙って視線をガラステーブルの上に落とした。
「そうすると、君をその国に派遣するために、扶桑総研がわがクラブにお金を支払うということ?」
「そうです」
「で、どのくらい?」
と依然として金井は警戒を解かない顔で聞いてくる。
「さあ、それは聞いていないですが、そのための交渉をしたいということなんじゃないんでしょうか?」
「そうね、・・・うちのクラブもいま、それほど仕事もないし、低金利で基金の果実も少ないし、不況で会員企業も退会が増えて、入会が皆無だから、わがクラブとしても、入金のあるのはありがたい話だけど・・・なんせ、あの専務理事だから、減りこそすれ、会員企業の増えるわけがない」
と言いながら、事務室に他の人間のいないのを確かめつつ声を潜めた。
「専務理事も、経産省からカネを引っ張ってくるのはいいけれど、そのカネは全部自分で使い切るという方針だからね。まるで、自分が引っ張って来た金は自分が使うのは当たり前だという態度だからね。君のように、財団の懐をいくらかでも暖めてくれるというのは殊勝で結構なことだ。・・・承知しました。今日の午後、お会いしましょう」
「ありがとうございます。さっそく、先方に連絡します」
 それからしばらくして、十時すぎにロイド眼鏡の専務理事が飄々としてやってくると、金井はそそくさと理事長室に入って行った。たぶん土岐の申し出を説明するのだと思った。
その日の昼休み、土岐はいつものように事務室でコンビニ弁当を食べた。福原も自分の席で自前の弁当を広げる。土岐がコンビニ弁当を持ってくるのは、地下街の飲食店が混雑するという理由と節約をするという理由だった。どんなに安いランチもコンビニ弁当の2倍はした。