欠勤を東亜クラブの事務局長の金井に願い出た場合、何が起こるかをとっさに考えてみた。東亜クラブとの雇用契約書に週日のアルバイト禁止の条項があった。大学の非常勤講師の講義は土曜日なので、アルバイト禁止条項には抵触しない。欠勤して扶桑総合研究所の仕事を引き受けた場合、アルバイト禁止の条項に触れるのかどうか、聞いてみないと分からない。欠勤している間の給与は返上するという申し出は、土岐の都合のいい言い分でしかないだろう。いまのところ、大学の職が得られない限り、東亜クラブのお世話にならざるを得ない。東亜クラブは口約束ではあるが単年度契約のようなものであるから、事務局長のご機嫌をそこねれば、来年度の契約の継続はなくなるかもしれない。東亜クラブをクビになった場合、扶桑総合研究所で世話になることも不可能ではないが、アルバイトは可能ではあっても、正社員の保証はない。かりに、正社員になれたとしても、残業が多く、会社の合間に研究論文を書けるような環境ではないことは、かつてそこでアルバイトをして知り尽くしている。そこで、金井に打診してみることにした。
「すいません、事務局長に相談してみたいんですが、この電話よろしいでしょうか?」
と言いながら土岐はテーブルの上にあった固定電話に手を伸ばした。
「そうだね、事務局長さんの意見を聞いた方が早いかもしれないね」
と鈴村は同調する。
「ゼロ発進だから・・・」
と言う鈴村の声に従って、受話器を取り上げてまず、ゼロのボタンを押した。金井がどういう反応を示すか土岐には想像がつかなかった。土岐が海外渡航ということになれば、金井は国内で留守番をすることから土岐の仕事に嫉妬するかもしれない。理由もなく、駄目と言うかも知れない。呼び出し音が3回して、福原が出た。土岐は、とりあえず事務室に人がいたことに安堵した。
「あ、福原さんですか。土岐です。ちょっと、金井さんに代わってもらえますか?」
待ち受けの音楽が流れて、数秒で、金井が出てきた。
「あ、土岐君。何か忘れもの?」
「いえ、いま、扶桑総研にお邪魔しているんですが、・・・申し上げにくいことなんですが、わたしにアルバイトはできないかという申し出で・・・」
「あ、そう。わたしは、別に構わないけど、専務がね。あの人、自分には甘く、他人には厳しく、という方針の人だから・・・当然、欠勤扱いになるだろうけど・・・」
「すいません、事務局長に相談してみたいんですが、この電話よろしいでしょうか?」
と言いながら土岐はテーブルの上にあった固定電話に手を伸ばした。
「そうだね、事務局長さんの意見を聞いた方が早いかもしれないね」
と鈴村は同調する。
「ゼロ発進だから・・・」
と言う鈴村の声に従って、受話器を取り上げてまず、ゼロのボタンを押した。金井がどういう反応を示すか土岐には想像がつかなかった。土岐が海外渡航ということになれば、金井は国内で留守番をすることから土岐の仕事に嫉妬するかもしれない。理由もなく、駄目と言うかも知れない。呼び出し音が3回して、福原が出た。土岐は、とりあえず事務室に人がいたことに安堵した。
「あ、福原さんですか。土岐です。ちょっと、金井さんに代わってもらえますか?」
待ち受けの音楽が流れて、数秒で、金井が出てきた。
「あ、土岐君。何か忘れもの?」
「いえ、いま、扶桑総研にお邪魔しているんですが、・・・申し上げにくいことなんですが、わたしにアルバイトはできないかという申し出で・・・」
「あ、そう。わたしは、別に構わないけど、専務がね。あの人、自分には甘く、他人には厳しく、という方針の人だから・・・当然、欠勤扱いになるだろうけど・・・」