不意に鈴村の扇子の手の動きが停止した。白いワイシャツの長い袖をたくしあげた腕に、短く太い毛がななめに逆立っている。左手のむくんだような指の間から、握り締められたフェイスタオルがはみ出ている。土岐が何か言うのを待っているようだった。
「期間はどのくらいなんですか?」
「予定では一週間程度、・・・こちらを週末に発って、現地作業は月曜日から・・・クライアントの要望があれば、延びるかもしれないけれど・・・」
と言いながら、土岐が話しに食いついて来ないことにいぶかしげに理由を探るように瞳孔を左右に蠕動させている。
「面白そうな仕事なんでお受けしたいんですが、・・・わたしはいま、財団法人東亜クラブの研究員という立場なんで、・・・大学院時代の研究生のようには自由がききません。お話では、週末に行ってとんぼ返りですむような仕事ではないんで・・・」
「そこなんだよ。休暇をとるとか、なんとかして、・・・なんとかなんないかね」
と断られることを想定していないような口ぶりだ。
「わたしの東亜クラブとの雇用契約では、・・・休暇の条項がないんですよ。忌引きとか、結婚とか、慶弔の条項はあるんですが・・・」
「そう。・・・そうすると、欠勤をお願いすることになるのかな。おそらく、減給の対象になるだろうけど、・・・こちらから払う報酬はそれ以上だとは思うんだけど・・・」