「間男さんみたいな台詞ね。知っているとお思いになる?」
「勿論、知っているわけがないだろう。言わずもがだな」
と土岐は心の中でつぶやいた。
「旦那は今どちら?」
と長谷川が聞く。
土岐は長谷川は知っていると思っていた。
(でも聞いたのはなぜか?知ってはいたが他に言うことが思いつかなかったのか?)
長谷川は言ってからばつの悪い思いをしている。
「隣の国に出張ですって。外務大臣様を早々に出迎えに行ったわ。宮仕えはご苦労なこと」
慶子の大きな瞳が悪戯っぽく笑っている。目尻に細い皺が一本走る。
通りすがる現地人が眉根に深い皺を寄せる。珍しそうに慶子を上から下まで、舐めるようにして見て行く。
慶子は年齢的には一二歳ほど長谷川より上のように見える。土岐には精神的は十歳近く上に思える。
「ヒジノローマまで、ご一緒してよろしいかしら?」
「え、ええ」
と長谷川はわざとらしく口籠もっている。いやとは言えない。
「是非もないということかしら?」
本音を全て見抜かれている。言葉の抑揚、目の動き、手振り、身振りで慶子は長谷川の心理を母親や姉のように見透かしている。
「一向に差し支えありませんが、往復で一日つぶれますよ」
「いいの、つぶしたいの。つぶさせて」
そう言われてしまえば、長谷川もなんとも返答の仕様がない。肩をすくめる。首をかしげる。承諾の意を表した。
遠くで警笛の鳴るのが聞こえた。音の方角を背伸びして見る。茶褐色のディーゼル機関車が自動連結器の鼻を上下左右に振っている。脱線しそうなほど大げさに揺れている。北の方角から入線して来た。九時五分過ぎに到着。前部標識灯の一つ眼を震わせて暗褐色の錆にまみれたディーゼル機関車の後ろに客車がぞろぞろと六両連結していた。後ろ一両がファーストクラス、次の二両連結がセカンドクラス、残りの三両連結がサードクラスの編成。
慶子を先に立てて、長谷川は六両目に乗り込んだ。
最後尾半分が郵便貨物用で車掌室も兼ねていた。
土岐は車掌室の方から六両目に乗り込んだ。
長谷川と慶子は出入り口に一番近いプラットフォームを見下ろす席に着いた。慶子は通路側に腰掛けた。
窓外の景色が見易いようにと、
「窓際に来ますか?」
と長谷川は気を利かせたつもりだった。断られた。
「勿論、知っているわけがないだろう。言わずもがだな」
と土岐は心の中でつぶやいた。
「旦那は今どちら?」
と長谷川が聞く。
土岐は長谷川は知っていると思っていた。
(でも聞いたのはなぜか?知ってはいたが他に言うことが思いつかなかったのか?)
長谷川は言ってからばつの悪い思いをしている。
「隣の国に出張ですって。外務大臣様を早々に出迎えに行ったわ。宮仕えはご苦労なこと」
慶子の大きな瞳が悪戯っぽく笑っている。目尻に細い皺が一本走る。
通りすがる現地人が眉根に深い皺を寄せる。珍しそうに慶子を上から下まで、舐めるようにして見て行く。
慶子は年齢的には一二歳ほど長谷川より上のように見える。土岐には精神的は十歳近く上に思える。
「ヒジノローマまで、ご一緒してよろしいかしら?」
「え、ええ」
と長谷川はわざとらしく口籠もっている。いやとは言えない。
「是非もないということかしら?」
本音を全て見抜かれている。言葉の抑揚、目の動き、手振り、身振りで慶子は長谷川の心理を母親や姉のように見透かしている。
「一向に差し支えありませんが、往復で一日つぶれますよ」
「いいの、つぶしたいの。つぶさせて」
そう言われてしまえば、長谷川もなんとも返答の仕様がない。肩をすくめる。首をかしげる。承諾の意を表した。
遠くで警笛の鳴るのが聞こえた。音の方角を背伸びして見る。茶褐色のディーゼル機関車が自動連結器の鼻を上下左右に振っている。脱線しそうなほど大げさに揺れている。北の方角から入線して来た。九時五分過ぎに到着。前部標識灯の一つ眼を震わせて暗褐色の錆にまみれたディーゼル機関車の後ろに客車がぞろぞろと六両連結していた。後ろ一両がファーストクラス、次の二両連結がセカンドクラス、残りの三両連結がサードクラスの編成。
慶子を先に立てて、長谷川は六両目に乗り込んだ。
最後尾半分が郵便貨物用で車掌室も兼ねていた。
土岐は車掌室の方から六両目に乗り込んだ。
長谷川と慶子は出入り口に一番近いプラットフォームを見下ろす席に着いた。慶子は通路側に腰掛けた。
窓外の景色が見易いようにと、
「窓際に来ますか?」
と長谷川は気を利かせたつもりだった。断られた。


