アイキルユウ

回避しようしたためでもない。君には幸せになってもらいたい。ただ、それだけだ@

 送信した後、長谷川がぽつりともらした。
「このメールを読んだあと縁談を断るような予感がする。佐知子の想いの重味がおれの両肩にのしかかってくるような不安がよぎった。佐知子がここに押しかけてきたらどうしよう。馬鹿げた妄想かな」
 長谷川はメーラーをログオフする。パソコンをダウンさせる。
 B5のノートパソコンとスペアのバッテリーを土岐のバッグに入れる。急いで事務所を出た。
 タクシーの運転手は車の外に出てタバコを吹かしていた。土岐と目が合う。あわててタバコをスニーカーの爪先で揉み消す。運転席に飛び乗った。
 土曜の朝のせいか国道はすいていた。
 途中動物園の入口付近で子供だけはしゃいでいる何組かの家族連れを見かけた。間延びした象の咆哮が聞こえてきた。
「実は、途中まで、ヘンサチ夫人が同行するかもしれない。ただ、おまえのことは言っていないんで、彼女に見られないようにしてもらえるか?込み入った話があるようなんだ」
「そうか。じゃあ、べつの車両にのればいいんだな」
と土岐が念を押すと長谷川は、
「いや。彼女もI kill youの容疑者の一人なんだ。見つからないように、隣の座席に隠れて話を聞いて、推理してもらえないか?」
「聞いていれば、彼女が真犯人か分るのか?」
「いや、どういう話が出てくるか分らないが雰囲気で判断してくれ」
「そうか。直接彼女に質問できないんであれば、それを引出すような質問をしてくれ」
「わかった。とにかく、辛抱強くつき合ってくれ」
と長谷川は言うが、土岐には長谷川の真意が掴めない。
 駅に着いたのは九時十分前。出札口で長谷川がファーストクラスの切符を買い求めた。参考までにセカンドクラスの運賃を土岐が訊く。半額だった。
 改札口からプラットフォームを望む。列車はまだ入線していなかった。乗客らしい人影もまばらだった。
 不安が長谷川の目の奥をよぎったように見えた。
 長谷川が改札口の駅員に列車の到着時刻を訊いた。
「ダイヤ通りだ」
と仏頂面で答える。
「始発だから定刻前に出発することはないはずだ」
と長谷川は不快そうにつぶやく。
 九時近くになった。線路の両方向を見やった。列車の姿は見当たらなかった。振り返るとフォームの中央に歪んで倒れそうなキオスクがあった。