アイキルユウ

「そう言えば、所長がこんなことを言ってたんだよね。『クライアントの夫人は重要だ。クライアントが落とせない時は夫人を落とせ。夫人を通じてクライアントの弱みを握れ。クライアントの子供も重要だ。夫人を落とし、子供をあやす。これも商社マンの仕事の内だ。君は加藤夫人にとっても、ジャナイデスカ夫人にとっても、丁度良い年頃だ。君は自分で気づいていないかも知れないが、女好きする性格なんだ。他に手頃な若い男は居ないんだから、頑張れよ』って。僕はどうも、所長の操り人形になってしまったようだ」
 優子を抱きながら、所長のだみ声が長谷川の耳に絡む。薄汚い禿げ頭が網膜にちらついている。
 長谷川の右手が優子の髪の毛を猫のようになでている。長谷川の瞳が不安気に揺れ動いている。さまざまな想念が回り灯篭のように回転している。
「もうそろそろ帰らないと。トイレで起きて、眼が覚めていると、大変でしょ?」
「そうね、あの人、異様に嫉妬深いから。あなたとミックスの試合に出場するとき、必ず偵察にくるって知ってた?」
「へぇー知らなかった。挨拶に来ないから、見に来ていないものだとばかり思ってた」
「ううん、これ加藤夫人に教えてもらったんだけど、いつも遠巻きに見にくるんですって。わたしがパートナーに対してどういう態度を取るのか観察しているみたい」
「そう。じゃ、なおさら早く帰らないと。君は彼に心から愛されているんだよ」
 別れるときの優子は重たげだった。長谷川に身を任せ、完全に筋肉を弛緩させている。
 長谷川がベッドから抱き上げて立たせようとする。浄瑠璃人形のようにしなだれかかってくる。体中の筋肉で抵抗する。体重が二倍もあるようで、長谷川が手を焼いている。