アイキルユウ

 女は下半身をずらす。逡巡することなくマッサージ台から降りた。そのままシャワーを浴びた。シャワーの鎌首を持つ。下半身だけを丁寧に洗う。シャワールームを出る。バスタオルで雫をぬぐう。後ろ向きに下着をつけた。Tシャツを首に通す。カーテンのこちら側の部屋の明かりをつけた。
 赤い照明が目に突き刺さる。ひどく明るく見えた。
 女は咎めるような目つきをした。
「早くシャワーを浴びて」
と路地裏の泥濘にまみれた子供をせかせるように言う。
「時間がないからいい。ホテルに戻ってから浴びる」
と面倒くさげに答える。女は甚だしく驚いたように、
「洗わなくていいの?」
と真顔で詰問してきた。
 それにはあえて答えない。無言のまま、射精後の虚しくも忸怩たる心持でそそくさと服を身に着けた。
「早くしないと超過料金を請求される」
とせかす女にチップを渡した。
 女はそれを手にしたまま暫く見つめていた。
 土岐は薄くなった財布を畳む。ポケットに突っ込んだ。部屋を出て行こうとする。女はやっと礼を言ってきた。
 規定の時間内に終了した。部屋のカーテンの向こうに長谷川の気配はなかった。階段を一段置きに駆け下りる。海側の土手にゆっくりと走って行った。
 長谷川が社外で煙草を吸っていた。
 ジャナイデスカは腕を組んで車の中で眠りこけていた。
 煙草の火が窓ガラスの縁で暗闇の中を赤く揺れていた。長谷川がドアを開けて助手席に着く。メンソールの匂いが鼻腔をかすめた。
 長谷川はジャナイデスカの骨張った肩を揺すった。
「大丈夫?運転できる?」
 ジャナイデスカはおおいかぶさっていたハンドルの上で首を左右させる。顎でクラクションを鳴らした。眼が首都の終着駅裏のひなびた魚市場の川魚のように死んでいた。
「ブアイソなおんなでしょォ?どうでしたァ~」
と断定するような口調で感想を求めてきた。言い終えたときよだれがジャナイデスカの口の右隅から糸を引くように垂れ落ちた。ハンドルをかすめて、フロアに延びて落ちて行った。  
 土岐は疲れていた。
 長谷川も、疲労困憊した口調で、
「まあね。無愛想といえば、無愛想だ」
と適当に答える。
「それじゃ、運転できないでしょう。代わりましょうか」
と後部座席から土岐が声をかけた。一旦外に出てから運転席のドアを開ける。ジャナイデスカは眉と眼と鼻と唇をだらしなく歪める。ニタニタと笑った。