アイキルユウ

「恥ずかしいから」
とカーテンの部屋のこちら側の電気を消した。
 闇しか見えなくなった。しばらくするとカーテンの端の隙間から部屋の隣側の明かりが漏れているのがわかった。カーテンの近くの天井と床がぼんやりと闇の中に死霊のように浮かんでいた。眼を凝らして女を見ようとした。何も見えない。目の奥が痛くなる。女の皮膚と繊維が擦れ合う衣擦れがかすかに聞こえた。闇の中を丸みを帯びた黒っぽい柔らかな塊がうごめいている。小さなスイッチの音がした。サイドテーブルの蝋燭の形をした赤い豆電球に灯りがついた。女の裸の輪郭がおぼろげに浮かび上がった。柔らかな重みが上半身に重ね合わされた。護謨鞠のような弾力性のある体重がすべてのし掛かかってきた。
 土岐は息苦しくなった。体をずらそうにもマッサージ台から落ちる。身動きができない。一瞬デジャービュが捉えた。次の瞬間、学生時代のカーセックスの思い出に想到していた。女の感触を過去に関係のあった女達と比べていた。弾力性のある肌の感触は最初に知った女子学生に近かった。手足が長くすらりとした体型は二人目の女に似ていた。
 木目細やかな肌が静電気を帯びている。吸い付いてきた。女の手が陰茎をまさぐる。鷲掴みに握り締める。しごいてから添えるように下半身にくわえこんだ。滑らかで冷ややかな皮膚がゆるやかに蠕動し始めた。両肩をつかんでいた女の指先に力が込められた。女の爪が肩の皮膚に浅く食い込んだ。
 マッサージ台が小刻みな振動音をだした。次第に女の息遣いが激しくなった。女のしなやかな髪が半開きにしていた口の中で舌に触れた。
 土岐はシャンプーの味のする髪を舌の先で少量の唾液とともに押しだした。軽く吐きだした。それから、
「口付けしてもいい?」
と遠慮がちに訊いた。目が闇に慣れたきた。女の表情がはっきり読み取れる。
 女は眠たげな顔で首だけ起こした。
「なぜそんなことを訊くの?」
と反問する。
「したければ勝手にしろ」
という意味なのか、
「この業界では禁忌だということを知らないのか」
という意味なのか、理解できなかった。躊躇していると、女の腰の動きがぴたりと止まった。黒い瞳が間近で急に大きくなった。