硫黄の臭いが鼻をかすめる。深い溜息とともに紫煙が吐かれる。裸電球の薄赤い光の界隈を漂った。
裸のまま女の容子を見るともなしに漫然と眺めていた。
「吸う?」
と女は疲れ切ったように煙草の暗い火をこちらにむけた。
「いらない」
と土岐は上半身だけ起き上がる。マッサージ台の上に腰掛けた。
カーテンを隔てた隣のマッサージ台で、長谷川が吶々とした英語で何かを説諭している。
土岐が残り時間を訊く。女は小さな腕時計の文字盤を赤い光源にむけた。
「あと30分」
と答えた。裸のまま、腕を組んで部屋の中を見回している。桃色のマニキュアの指先から一筋の煙が揺らめく。糸を引くように女の頭の上に昇る。壁伝いにゆるやかに棚引いていた。ふと、さきほどの少年のあどけない顔が頭をよぎった。
「あの男の子は誰の子?」
とやるせなげな所作しか見せない女に訊こうとした。
「長谷川の相手をしているもうひとりの女と姉妹なのか」
とも訊こうとした。やめた。
(どうでもいいことだ)
しばらく腕を組んだまま床を見つめていた。
口笛を吹くような隣の女の吐息がカーテン越しに時折聞こえてきた。沈黙が五分ぐらいあった。
薄暗い部屋の中を漫然と幾度も見回した。
女が煙草を白い陶器の灰皿で揉み消した。小さな丸テーブルの足がカタカタと音を立てた。女がこちらを見た。はからずも明日ヒジノローマに行くことが口から出た。女の眼に赤い小さな光が燈った。面長で深い二重瞼をしていた。濃い眉と長い睫が烏羽色に濡れている。
「ヒジノローマに行ったことがある?」
と訊く。女は即答しない。間を置いて物憂げに答えた。
「一度だけ」
と首を傾ける。どういう趣旨の質問かと訊きたげだ。
土岐はシーフード・レストランで、ジャナイデスカの身代わりとしてヒジノローマに行かされるという話を長谷川がしていたのが気になっていた。
「武装した反政府ゲリラはよく出るの?」
と訊く。
「そういう話を聞いたことがある」
と女は頬に掛かった髪を掻き揚げる。ほの暗い天井に目を泳がせる。
「最近また死者が出たらしい」
と女はリエゾンのない聞き取りやすい英語で話しだした。
裸のまま女の容子を見るともなしに漫然と眺めていた。
「吸う?」
と女は疲れ切ったように煙草の暗い火をこちらにむけた。
「いらない」
と土岐は上半身だけ起き上がる。マッサージ台の上に腰掛けた。
カーテンを隔てた隣のマッサージ台で、長谷川が吶々とした英語で何かを説諭している。
土岐が残り時間を訊く。女は小さな腕時計の文字盤を赤い光源にむけた。
「あと30分」
と答えた。裸のまま、腕を組んで部屋の中を見回している。桃色のマニキュアの指先から一筋の煙が揺らめく。糸を引くように女の頭の上に昇る。壁伝いにゆるやかに棚引いていた。ふと、さきほどの少年のあどけない顔が頭をよぎった。
「あの男の子は誰の子?」
とやるせなげな所作しか見せない女に訊こうとした。
「長谷川の相手をしているもうひとりの女と姉妹なのか」
とも訊こうとした。やめた。
(どうでもいいことだ)
しばらく腕を組んだまま床を見つめていた。
口笛を吹くような隣の女の吐息がカーテン越しに時折聞こえてきた。沈黙が五分ぐらいあった。
薄暗い部屋の中を漫然と幾度も見回した。
女が煙草を白い陶器の灰皿で揉み消した。小さな丸テーブルの足がカタカタと音を立てた。女がこちらを見た。はからずも明日ヒジノローマに行くことが口から出た。女の眼に赤い小さな光が燈った。面長で深い二重瞼をしていた。濃い眉と長い睫が烏羽色に濡れている。
「ヒジノローマに行ったことがある?」
と訊く。女は即答しない。間を置いて物憂げに答えた。
「一度だけ」
と首を傾ける。どういう趣旨の質問かと訊きたげだ。
土岐はシーフード・レストランで、ジャナイデスカの身代わりとしてヒジノローマに行かされるという話を長谷川がしていたのが気になっていた。
「武装した反政府ゲリラはよく出るの?」
と訊く。
「そういう話を聞いたことがある」
と女は頬に掛かった髪を掻き揚げる。ほの暗い天井に目を泳がせる。
「最近また死者が出たらしい」
と女はリエゾンのない聞き取りやすい英語で話しだした。


