アイキルユウ

 長谷川は言われるままの金額を財布から抜き取って渡した。国立銀行で引きだしたばかりの紙幣の半分ほどが消えた。男に財布の中を覗き込まれているのが少し気になっている。
 二人の女が床を軋ませながら廊下に出た。
 土岐は長谷川のあとに続いた。
 女は廊下の奥の右側の部屋のドアノブに手を掛ける。振り向いた。後ろの女が手招きする。
 部屋の中は廊下よりも薄暗い。天井の裸電球が赤いセロファンで遮光されていた。部屋の中央に手術台のような狭くて短いマッサージ台が二台並んでいる。その真ん中に遮光カーテン。半分ほど引かれていた。歪んだ硝子張りのシャワールームは右奥。ドアの脇にスプリングの傷んだ茶のソファー。傍らの小さなサイドテーブルの上に黄ばんだバスタオル。使い古したボディオイルの瓶。床はコンクリートの打ちっ放しだ。
 土岐はポケットの財布をズボンの上から確かめた。部屋の壁を見回した。何も掛かっていない。窓もない。天井と同じ白いペンキが塗られている。地の煉瓦の凹凸が不揃いな淡い陰影になっていた。
 長谷川がポロシャツを脱ぎながら言う。
「このアミューズメント・センターの存在は前任者から事務的に聞いていた。二年前の職務引継ぎのときのことだ。『余分なチップを女に払わないように。それが相場になって邦人社会が甚大な迷惑を被るから。また、くれぐれも個人的な感情に溺れないように。彼女らは邦人社会の希少な共有物だから、独占することはタブー。病気にも要注意』というような忠告を万事開けっ広げな前任者から口頭で受けた。『叔母さんと姉妹でやっていて、姉は三十ぐらい、妹は二十五ぐらい。テクニックは姉のほうがある。面食いなら妹のほうだが。両方試してみたけれどどっちもどっちかな。好き好きだ』と言っていた」
とトランクス一枚になって、