アイキルユウ

「これは暗黙の接待の要求だ。知っていながら彼を一人で行かせるわけにはいかない。所長の分厚い唇を借りれば『接待の要求は貸しを作る為の千載一遇のチャンスだ』ということになる。こちらから持ちかける接待とは意味がまったく違う。向こうから餌に食いついてきたことを意味する。所長は着任当初、おいしい餌についての情報をばら撒き要求させるように仕むけ、こうした接待をかなりエンジョイし一晩にいくつか掛け持ちしたことを公然と自慢していた」と土岐に語りかけた。
 土岐は不安になった。
「どこにいくんだ?」
「まあ、つきあってくれ。アミューズメント・センターだ」
と言ったなり、長谷川は詳しいことは説明しない。
 土岐はゲームセンターのようなものを想像した。
 ハンドルに抱きつくような運転だった。隣の長谷川が片手をハンドルに添えている。ジャナイデスカの首がゆるやかに左右に揺れていた。時々おくびを吐く。しゃっくりをする。意味のない薄ら笑いをへらへら浮かべる。断続的にアクセルを踏んでいた。フットブレーキと急加速が繰り返された。しらふであればとても助手席に座っていられないような運転だった。
 自動車は国道を少し南下する。高級住宅街のはずれの海沿いの土手につんのめった。頭から突っ込むようにして停車した。バンパーが多少傷んだような気がした。
「しめ、しめ。まだ、だ~れも客はきていないじゃないですかァ。ラッピ~、ラッピ~、ラッピッピ~のラリルレロ~」
とジャナイデスカは朗らかにほくそえむ。
 ジャナイデスカに従う。白けた重い気分を引摺りながら土岐は車を出た。
 国道を隔てて反対側に赤茶けた煉瓦造りの二階建てのビルがあった。両隣はかなり大きな屋敷の庭になっている。低い垣根があった。辺りの家屋から漏れてくる電光はなかった。忘れ去られたようにその建物の二階にだけ鄙びた照明が亡霊のように浮かんでいた。
〈アミューズメント・センター〉
と筆記体で書かれた看板をかろうじて見て取ることができた。
 一階は間口五ヤードほどの自動車とオートバイの修理工場で、
〈Auto〉
と書かれた文字の下に工具の絵のある錆びだらけのシャッターが降ろされていた。右隅に二階に昇る階段の入口があった。木製のドアは内側に半分開け放たれたまま。異次元への入り口のような印象。
「♪ル~ンル~ンラ~ンラ~ンルゥ~ルゥ~ラァ~ラァ~♪」