アイキルユウ

 土岐が脇を支えた隙にジャナイデスカのポロシャツの胸ポケットに長谷川が高額紙幣を忍び込ませた。長谷川が土岐に囁いた。
「これで事務所が出したことになる。これはお車代を渡すときの手口だ。彼がどういう現金管理をしているか知らないが、帰宅した彼を介抱する優子夫人は財布の金とポケットの金を合計すれば、家を出たときの持ち金とあまり変わっていないことを確認するだろう」
 駐車場の淡い街路灯の周りに海風が波のように戦いでいた。付きまとう潮騒の香りが稠密になった。八時をとっくに過ぎていた。先刻の肉付きのいい緑の少女はどこにも見当たらなかった。
「そういえばァ、このお店から帰るのはァ、いつも7時すぎだったかなァ。今夜はいつもよりもずいぶんと遅いんだァ」
とジャナイデスカは足をふらつかせている。どっかと自動車に乗り込んだ。
「奥さんがいれば運転してもらえたのに。どうして来なかったの?」
と長谷川が再び聞いてしまった。
「『イヤ』だってェ。理由はいわないんで。でも、おくっていきますよォ。エンリョしないでェいいですヨ」
というジャナイデスカの誘いを土岐は鄭重に固辞した。
 しかし、酔ったせいか、
「そんなこといわないでェ。所長代理さん、ねェッ」
とジャナイデスカは執拗に誘う。
 その理由は渋々乗り込んでからわかった。
「マッサージにいこうじゃないですかァ」
と運転席で諸手を上げる。足をばたつかせて言う。
「すこしィ、よいをさましたいしィ、ここからならァ、5分でいけるしィ。いいじゃないですかァ。帰ったってどうせ一人でしょ。どうせェ、せっせとマスかくだけでしょ」
と焦点の合わない眼をヘッドライトに浮かび上がる白い路面にこらしている。
 オートマチック車がすでに動き始めた。
 もう行くつもりだ。土岐は応諾の返事はしなかった。
 土岐は明日のヒジノローマ往きのこともあり、なんとなく気が進まなかった。
 しかし、助手席に座った長谷川は、