最後に、ここでの飲食が接待交際費の対象範囲に含まれていることを長谷川が遠まわしに言ったことが気に障ったのか、ジャナイデスカは拗ねたように、
「今夜の支払いはァ、ダッチトリートにしますゥ」
と言い張ってきかなかった。
誰の腹も痛めることなく事務所経費で落とせることはジャナイデスカも熟知しているはずだ。
「どうしても、と言うのなら、チップだけお願いするよ」
と長谷川が言ってもジャナイデスカは駄々っ子のように聞き入れなかった。長谷川は小声で土岐に囁いた。
「これが所長にばれると叱責の対象になる。ばれることはないとは思うが。着任以来、接待については所長は口やかましいんだ。『顧客や官僚とは不即不離、ズブズブの接待漬けにしろ』とか、『事務は当然の業務。万難排すべき最重要の仕事は接待だ』とか言うのが、当地赴任以来の所長の間断のない業務命令だ。『奴等に支払いをさせる隙を絶対見せちゃぁいけねぇ』とか、『奴等に一度でも支払わせたら貸し借りなしってぇ意識を持たせることになる。それまでの接待交際費が全て水泡に帰すんだ』とか言うのが耳に胼胝の出来る程聴いた所長の口癖だ。『支払いは御前達イコール民間業者ってぇことをルーチン化させれば、後は黙っていても口利きもルーチン化される』とか言う所長が口を酸っぱくさせて説いたこういう訓戒もある。『官僚達とは、はらわたを洗い浚い抉りだして、差しつ差されつ、ヌルヌルグチャグチャの抜差しならねぇ関係になれ』という日頃からの厳命のようなものもある」
と言いながらグラスのアラックを飲み干して、
「彼は開発銀行の生え抜きで、官庁からの出向じゃない。だからヘンサチとはちがって、官僚じゃない。しかし開発銀行は公的金融機関だから、彼の身分は公務員に準ずるんだ。だから彼もヌルヌルグチャグチャの接待の対象だ。こんな地の果てじゃ検察や会計検査院の眼も届かない。目を届かせたとしても検察や会計検査院にとっちゃ塵ほどの手柄にもならない。労多くして功殆ど、全くなしという国柄だ。事務所開設以来、一度も摘発の対象となったことがない。まさにこの国は贈収賄天国で接待桃源郷だ」
結局、割勘で支払を済ませて外に出た。領収書は長谷川が貰った。
ジャナイデスカはそのことを覚えていないと思わせるほど酔っぱらっていた。出口のステップを踏み外してよろめいた。
「今夜の支払いはァ、ダッチトリートにしますゥ」
と言い張ってきかなかった。
誰の腹も痛めることなく事務所経費で落とせることはジャナイデスカも熟知しているはずだ。
「どうしても、と言うのなら、チップだけお願いするよ」
と長谷川が言ってもジャナイデスカは駄々っ子のように聞き入れなかった。長谷川は小声で土岐に囁いた。
「これが所長にばれると叱責の対象になる。ばれることはないとは思うが。着任以来、接待については所長は口やかましいんだ。『顧客や官僚とは不即不離、ズブズブの接待漬けにしろ』とか、『事務は当然の業務。万難排すべき最重要の仕事は接待だ』とか言うのが、当地赴任以来の所長の間断のない業務命令だ。『奴等に支払いをさせる隙を絶対見せちゃぁいけねぇ』とか、『奴等に一度でも支払わせたら貸し借りなしってぇ意識を持たせることになる。それまでの接待交際費が全て水泡に帰すんだ』とか言うのが耳に胼胝の出来る程聴いた所長の口癖だ。『支払いは御前達イコール民間業者ってぇことをルーチン化させれば、後は黙っていても口利きもルーチン化される』とか言う所長が口を酸っぱくさせて説いたこういう訓戒もある。『官僚達とは、はらわたを洗い浚い抉りだして、差しつ差されつ、ヌルヌルグチャグチャの抜差しならねぇ関係になれ』という日頃からの厳命のようなものもある」
と言いながらグラスのアラックを飲み干して、
「彼は開発銀行の生え抜きで、官庁からの出向じゃない。だからヘンサチとはちがって、官僚じゃない。しかし開発銀行は公的金融機関だから、彼の身分は公務員に準ずるんだ。だから彼もヌルヌルグチャグチャの接待の対象だ。こんな地の果てじゃ検察や会計検査院の眼も届かない。目を届かせたとしても検察や会計検査院にとっちゃ塵ほどの手柄にもならない。労多くして功殆ど、全くなしという国柄だ。事務所開設以来、一度も摘発の対象となったことがない。まさにこの国は贈収賄天国で接待桃源郷だ」
結局、割勘で支払を済ませて外に出た。領収書は長谷川が貰った。
ジャナイデスカはそのことを覚えていないと思わせるほど酔っぱらっていた。出口のステップを踏み外してよろめいた。


