アイキルユウ

「それもあるけど、加害者になるリスクを負うよりは被害者になるリスクを引き受けるほうがはるかに気が楽だから」
と長谷川は弁解した。
 ジャナイデスカは腑に落ちないと言いたげに口を尖らせた。
「この国の連中はァ、徹底した運命論者です。努力するのも運命ェ、しないのも運命ェ、がんばるのも運命ェ、がんばらないのも運命ェ、勉強ができるのも運命ェ、できないのも運命ェ、運命を信じるのも運命ェ、すべてがアッラーの思し召し。死ぬのはどうせ運命なんだからァ、どうせ死ぬんならァ、補償金のもらえる交通事故死をォ、すなおに喜ぶんですゥ。死んだヒトはそれまでの運命です。遺族が喜べばそれでいいんじゃないんですかァ?それよりィ、ここのヒトのクルマにひかれたら悲劇です。補償金はせいぜい月給分です。葬式代もォ、でないんじゃないですかァ。アッラ~アクバル!」
と捲くし立てる。少し呂律が回らなくなっていた。同じような内容の話を二度、三度と繰り返す。
 土岐はただ黙って聴いていた。多少反論めいたことを言うと、話がくどくなる。言いたいだけのことを言わせるとジャナイデスカはトイレに立った。
 二人だけになると、
「どう思う?」
と長谷川が土岐に聞いてきた。
「どうって?」
「あのジャナイデスカさ。I kill youの犯人に見えるか?」
「出会って、まだ、半日しかたっていないからな。なんとも言えない。しかし、かみさんに一日に同じ文面のメールを十通も送信するのは異常だな」
「おれはあいつはアホとしか思えないんだが、おまえはどう見る?」
「自慢じゃないが、僕は人を見る目がない。人の腹を探るというのが不得意だ。しかし、アホを装っているとすれば、演技者だね」
「まあ、いい」
 しばらくして、ジャナイデスカがスキップしながら戻ってきた。一休みして、話題を変えてきた。
「そういえば、あした、ヒジノローマにいくそうで」
ととろけたような眼を上げて土岐を見た。
 すかさず長谷川が言った。
「うちの所長があんたに言うことはありえないんで、多分、ヘンサチがあんたに教えたんじゃないの」
「ヒジノローマのはなし?」
「そう」
「あたり!」
とジャナイデスカが大声で叫ぶ。
「というか元々この話はあんたに持ち込まれたんじゃないの?」
「ブー」
とジャナイデスカがバツ印を両手で示す。
 それを見て、長谷川が土に説明する。