アイキルユウ

「酒気帯び運転はァ、いちどやるとやめられないんですゥ。酩酊感覚とォ、ひりつくようなスピード感。道路がぼこぼこに波うってェ、ヘッドライトがひらひら踊る。路肩に突っこんだりィ、対向車とぎりぎりですれちがったりィ、対向車線にはみだしたりィ。ひょっとしたら死んじゃうかも知れないスリルがァ、たまらないんですゥ。アクション映画さながらなんですゥ。とくに夜はァ、ふわふわと宙をまっているようでェ。朝目をさましてェ、ほとんど記憶がないことがよくあってェ。残っている記憶はァ、まるで雲のなかをさまよい歩いてきたような感じでェ。でも不思議じゃないですかァ。一歩まちがえちゃえばァ、死んでいたかァ、事故をおこしていたはずなのにィ、いつもブジなんですよォ」
とジャナイデスカは宙に視線を∞の字に泳がせる。
 夢見るような眼で、
「人を轢いたら、やばいんじゃないの?」
と再度、長谷川が飲酒運転の危険性を注意した。
 ジャナイデスカはとろんと据わった眼つきで、
「やすいもんですよ。ひと月分の給料でかたがつくんだから。遺族は片目で悲嘆にくれながらもォ、別の片目では嬉し涙がとまらない。なんたったってェ、かれらの5年分の収入になるんですからァ。5年分ですヨ。家が1軒買えちゃうんですヨ」
と飲酒をやめる気配がない。
「ここの人間を轢死させても、懲役刑にはならないんですか?」
と土岐も食い下がった。ジャナイデスカの飲酒を抑制しようとした。
「この国にィ、司法の独立なんてしゃれたものはないんですよォ。ボクは外国人だしィ、しかも我が国の経済援助を一手にあつかう開発銀行の行員ですヨ。懲役刑なんかにしてェ、援助が一挙に減っちゃったらどえらいこってすゥ。慰謝料なんかとォケタが3ケタもちがうんですからァ、3ケタもォ~」
と一向に気にしていない。
 帰りに下宿の安ホテルで落としてもらおうと土岐は考えていた。断念した。
 それを察したのか、
「そうか、あなたはいつもクルマじゃなかったんだァ」
とからむような喋り方で呂律の矛先を長谷川にむけてきた。
「クルマを運転しないのはァ、ヒトに運転させておいてェ、おサケをたらふくのみたいからなんじゃないんですかァ?」
とジャナイデスカのフランス車に長谷川が便乗しようとしていることを責めてきた。