アイキルユウ

とジャナイデスカは、ポケットに手を突っ込む。腰のあたりをもぞもぞさせている。
 長谷川がにやりと笑う。
「いえ、お持ちならいいんです」
「どこかに、かけるんですか?」
とジャナイデスカが水色の携帯電話をテーブルの上に置いた。
「いや。メールはよくしますか?」
「この携帯で、ですか?」
「ええ」
「優子によくメールします。勤務時間中は、電話できないんで、連絡はもっぱら携帯のメールです。一日、十通ぐらいですかね」
「奥さんにですか?」
「ええ。同じ文面で、リピート機能使って」
「同じ文面で?」
「いまなしにしてる?ってえ文面です。彼女やることないんですよね。子供もいないし、家政婦はいるし、友達といっても慶子さんしかいないし。寂しがらせちゃ、いけないと思って。亭主の務めです」
とジャナイデスカはうれしそうに言う。
 長谷川は聞いていられないという顔つきで、話を密造酒に戻した。
「そのウエイターも、多少はマージンを取るんでしょ?」
とジャナイデスカに、相槌を求める。
「そりゃァそうですゥ。法にふれるって、法を遵守するようなこと言って、一応ことわるのはァ、万一ばれたときのォ、共犯関係をつくるためじゃないですかァ。やつらしたたかですよ」
とうなずく。胸ポケットからメンソール煙草を取りだした。
「今日の3本目ェ。フフフフフッ。やめられないッ」
と唇に挟んで蝋燭の炎で煙草に着火させた。
 小さめのワイングラスふたつと蓋のついたデカンタがやってきた。
「ハウスワインは赤かァ。白じゃないのかァ」
とジャナイデスカはデカンタの首を持つ。蓋を右手の親指で開ける。小さめのワイングラスに自分のグラスから先になみなみと注いだ。
「暗いからァ、アカというよりはァ、クロじゃないですかァ」
と高いキーであたりを憚らずはしゃぐように涼やかに笑った。
「カンパイ!」
と叫ぶ長谷川に合わせて土岐も、
「乾杯!」
とグラスを合わせた。最初にひと口だけ含んでみた。舌先で転がしてみる。ボディのない渋いだけの葡萄ジュースだった。
「ところで、なにに乾杯?」
と何がうれしいのか、落ち着きのないジャナイデスカに長谷川が改めて訊く。
「首都圏の国際空港近代化プロジェクトの独占契約にィ!」
とワインを呑みながら仕合わせそうに皺の多い目を細めた。