アイキルユウ

 土岐も一緒にロッカールームに行った。
 ジャナイデスカは、さっさと着替えて、ロッカールームを出て行った。それを見届けて長谷川が話し出した。
「ジャナイデスカ夫人は、ジャナイデスカの居ない席では彼のことを、『恵一さん』とは呼ばずに、『恵みちゃん』と呼ぶんだ。いつか理由を聞いたことがあった。『だって、ロブばかりあげたり、スマッシュを打てるようなチャンスボールがあがっても、なよなよとドロップを落としたりして、プレースタイルがおばさんみたいなんだもの』と言っていた」
 長谷川は笑いながら話す。おかしさに堪えられない。
 土岐はロッカールームで、借りた水着に着替えた。一目散にプールに飛び込んだ。
 プールサイドには白人の男女がふたり。ビーチチェアに仰むけになって白い肌を焼いていた。
 ジャナイデスカはうまずたゆまず、身投げのような飛び込みとクロールを繰り返していた。
 慶子はひまわりの花柄のビキニ、優子は赤い無地のビキニで、プールサイドに現れた。
 長谷川は彼女らの水着の下の姿態を知っているのか、ちらりと見るだけで、水着姿をまともに見ることができない。
 そういうことをジャナイデスカは知らぬげにバシャバシャと音を立てて泳いでいる。
 慶子の水着姿に対して長谷川が何を感じているのか、優子は全く気にしていない。
 優子の水着姿に対して長谷川がどう感じているのかを、慶子も全く気にしていない。
 土岐は長谷川の夫人たちを見る視線に、猥褻な雰囲気を感じる。
 夫人達が長谷川の猥雑な視線を気にしていないように見えるというのは、土岐が二人の会話や表情を見る限りにおいてということだ。しかし、女同士の異性の視線に対する鋭い直感を土岐が理解していないだけのことなのかも知れない。
 彼女らの水着姿に興奮してきそうな体を鎮めるために、土岐は飛び込み板から水面を切るように飛び込んだ。潜水したまま反転した。上を見上げる。碧空にオレンジの雲が途切れ途切れに棚引いていた。
 平泳ぎと背泳ぎに疲れる。プールの隅で仰むけになった。
 水は生温い。
 ジャナイデスカの飛び込む水音、優子の犬掻きのような平泳ぎの水音、慶子のゆったりとしたクロールで水面を叩く音だけが聞こえてきた。
 長谷川はプールサイドでビーチチェアに腰かけている。