アイキルユウ

 第二セットが始まった。一時間もたたないうちにジャナイデスカが顎をだした。調子も悪かった。ダブルフォルトが多い。ストロークはアウトする。ボレーは浮く。ドロップはネットした。
 パートナーの慶子の呆れ返ったような、うんざりしたような大げさな表情が長谷川にむけられる。
 審判をしながら土岐は、4人のプレーヤーのプレーを通じた人間関係を観察していた。
 ジャナイデスカは喜怒哀楽のはっきりしたお調子者。心に裏も表もない。策略を一切講じることのない平板な性格。
 優子は対戦相手のジャナイデスカに対してうんざりしたような軽蔑的な視線を投げかけている。眩しいのか、困惑しているのか、眉毛の線を常に上反りにさせている。興福寺の阿修羅像を連想した。
 慶子は手足が長い。いかにも遊びとして、余裕を持ってプレーをしている。ミスをすると一々カリカリするジャナイデスカのプレー態度と比べると対蹠的だ。
 ジャナイデスガがサーバーのとき、ネットにかかったボールを慶子はラケットの先で小突くようにゴロで返球する。マナーとしては褒められない。サーバーは体力を使う。返球はワンバウンドでサーバーの胸に届かせるのが常識だ。慶子のような返球では、サーバーはボールを受け取るとき、その都度、腰をかがませなければならない。そのつど、腰の筋肉を使う。サーバーの疲労が累積する。
 これに対して優子は、長谷川がサーバーのとき、必ずネットに掛ったボールを拾い上げる。ワンバウンドで長谷川の胸に届くように、丁寧に返球していた。ジャナイデスカがその違いに気づいているようには見えなかった。
 ジャナイデスカがセカンドセットを終えたところで、
「もうやめよう」
と言いだした。
「たかがテニスでもォ、これだけ悪いとめいってきますねェ。この辺で切り上げてプールでェ、泳いでいきませんかァ?今日は何かとてつもなく暑いですよ」
とジャナイデスカはラケットを放り投げた。
 それを見て優子は軽蔑の眼差しでジャナイデスカを見た。
 慶子も似たような目線をジャナイデスカにむけた。慶子の目元は笑っていた。同時に、優子にむけられた慶子の表情には、
「どうする?」
という問いかけがあった。
 水の出の悪いシャワーよりはプールに浸かったほうが汗は取れることは皆知っていた。
 三人ともジャナイデスカの提案に従った。
「水着を貸してやるよ」
と長谷川が言う。