長谷川は会社の口座から現地通貨を引きだした。その後、駅前の埃だらけの看板を掲げている旅行代理店で土岐の旅行保険を買った。ジャナイデスカの車に戻る途中で、長谷川が話し出した。
「去年、国民銀行にキャッシュディスペンサーを売り込みに行ったことがあったんだ。少し説明すると、担当者はすぐに断ってきた。理由は、第一に、機械が行員の年収の五十年分もして高額すぎるということ。第二に、札の半分以上が汚くて、機械に投入できないだろうということ。第三に、カード社会がこの国では浸透していないということだった。そもそも、預金口座それ自体を大半の国民は持っていないというんだ。つまり、一般国民は銀行に預金するほどゆとりのある現金すら持ち合わせていないと言うのだ。給与振込も公務員と一部の大企業の社員だけだ」
土岐は聞き流していた。
寄り道をしたことを長谷川がジャナイデスカに詫びながら車に戻る。
青空の中に墨汁を滴らせたようなスコール雲が湧き出てきていた。
「これ、毎夕のことなんだ」
と長谷川。
少し薄暗くなった。ぽつんときたらいきなり沛然と降ってきた。
ジャナイデスカがワイパーを最速にしても前方が見えない。
仕方なく車は路肩に止まる。スコールが弱まるのを待った。
「すごい雨ね。地球温暖化の影響かしら」
とやっと優子が世間話めいたことを口にした。
「京都プロトコルはとっくに発効しているはずなのに」
と土岐が優子が知っていそうもないことを言う。
優子は頑なに後部座席に視線をむけようとしない。
優子はジャナイデスカには幾度となく、
「それなあに?」
と聞いている。口癖のようだ。
二三分すると驟雨のようになった。さらに一二分するとぴたっとやんだ。雲が切れてきた。分厚い緞帳が開く。みるみる明るくなった。
四時前にテニスコートに着いた。駐車場に洒落たイタリア車が先着していた。
先頭にジャナイデスカ、次に優子、その後ろに長谷川、最後尾に土岐の順でクラブハウスに向かう。歩きながら、大きく振った長谷川の左手が幾度も優子の腰のあたりに触れた。
男三人でクラブハウスの中の男子用のプライベートロッカー・ルームに入った。長谷川のロッカーを開けると脱ぎ捨てたテニスウェアーが放り込まれていた。豆腐の饐えたような強烈な臭いがした。他に着る物がない。長谷川はそのまま身に着ける。
「去年、国民銀行にキャッシュディスペンサーを売り込みに行ったことがあったんだ。少し説明すると、担当者はすぐに断ってきた。理由は、第一に、機械が行員の年収の五十年分もして高額すぎるということ。第二に、札の半分以上が汚くて、機械に投入できないだろうということ。第三に、カード社会がこの国では浸透していないということだった。そもそも、預金口座それ自体を大半の国民は持っていないというんだ。つまり、一般国民は銀行に預金するほどゆとりのある現金すら持ち合わせていないと言うのだ。給与振込も公務員と一部の大企業の社員だけだ」
土岐は聞き流していた。
寄り道をしたことを長谷川がジャナイデスカに詫びながら車に戻る。
青空の中に墨汁を滴らせたようなスコール雲が湧き出てきていた。
「これ、毎夕のことなんだ」
と長谷川。
少し薄暗くなった。ぽつんときたらいきなり沛然と降ってきた。
ジャナイデスカがワイパーを最速にしても前方が見えない。
仕方なく車は路肩に止まる。スコールが弱まるのを待った。
「すごい雨ね。地球温暖化の影響かしら」
とやっと優子が世間話めいたことを口にした。
「京都プロトコルはとっくに発効しているはずなのに」
と土岐が優子が知っていそうもないことを言う。
優子は頑なに後部座席に視線をむけようとしない。
優子はジャナイデスカには幾度となく、
「それなあに?」
と聞いている。口癖のようだ。
二三分すると驟雨のようになった。さらに一二分するとぴたっとやんだ。雲が切れてきた。分厚い緞帳が開く。みるみる明るくなった。
四時前にテニスコートに着いた。駐車場に洒落たイタリア車が先着していた。
先頭にジャナイデスカ、次に優子、その後ろに長谷川、最後尾に土岐の順でクラブハウスに向かう。歩きながら、大きく振った長谷川の左手が幾度も優子の腰のあたりに触れた。
男三人でクラブハウスの中の男子用のプライベートロッカー・ルームに入った。長谷川のロッカーを開けると脱ぎ捨てたテニスウェアーが放り込まれていた。豆腐の饐えたような強烈な臭いがした。他に着る物がない。長谷川はそのまま身に着ける。


