「多分、今晩外務大臣を隣国まで出迎えに行くことになると思うけど。なにせ一泊二日の強行日程だ。万事遺漏なく運ぶために、事前に詰めなければならないことが多い。他に何かない?」
と加藤は一方的に澱みなくしゃべり続けた。最後にそう尋ねてきた。
「いえ、とくにべつにありません」
と意図的に気の進まない口吻で長谷川は答えた。感情を押し殺しているように聞こえる。
「何か気づいたら出かける前にこちらから電話します」
と付言した。長谷川は受話器を置いた。椅子から立ち上がって、灰色のスティールキャビネットを開ける。何かを探し始めた。
土岐が長谷川の背後からキャビネットを覗き込むと、
「三年ほど前に納品した九馬力の耕運機のファイルを探してるんだ。ファイルは所長が保管していたと思うが。パンフレット一式で、性能、最大出力、始動方式、変速段数、寸法、耕幅、燃料タンクの大きさ、装備重量の記載と操作マニュアルがあるだけで、アフタケアに耐えられるようなしろものじゃないんだけど。パーツの一覧表も諸元表もなかったはずだ。どうせ例によって旧式だから、部品が駄目になったとしても取り寄せることはできない。汎用部品があったとしても単品の注文であれば馬鹿馬鹿しいほど高価になる。修理をしようにも修理できる人間はここにはいない」
と長谷川は、どうしたものかと思案している。不意に、
「車よっか、列車で行った方が、いいかも知れねぇなぁ」
と川野が居眠りから覚めて独り言のように呟いた。
「そうですね。ハイヤーで行くよりは楽でしょうね」
と言って、長谷川は早速ターミナル駅に電話で問い合わせた。
大きな飴玉をしゃぶっているような英語が受話器に返ってきた。
「ヒジノローマ方面へ行く列車は週日も週末も1日3本で午前9時発と正午発と午後3時発。各駅で急行はない」
と叫んでいる。長谷川の耳と受話器の隙間から漏れ聞こえてくる。
「所要時間は四時間ほどだから、夕方までに農業試験場に到着するように午前中の列車で行くことにした方がいいな」
と長谷川が受話器を置き、土岐に説明する。振り向いて川野に言う。
「土岐と一緒にヒジノローマに行って、わたしはとんぼ返りで戻ってきます。明朝はこちらに寄らずに、直接駅に直行しますので、事務所宛のeメールの処理、お願いできますか?」
と加藤は一方的に澱みなくしゃべり続けた。最後にそう尋ねてきた。
「いえ、とくにべつにありません」
と意図的に気の進まない口吻で長谷川は答えた。感情を押し殺しているように聞こえる。
「何か気づいたら出かける前にこちらから電話します」
と付言した。長谷川は受話器を置いた。椅子から立ち上がって、灰色のスティールキャビネットを開ける。何かを探し始めた。
土岐が長谷川の背後からキャビネットを覗き込むと、
「三年ほど前に納品した九馬力の耕運機のファイルを探してるんだ。ファイルは所長が保管していたと思うが。パンフレット一式で、性能、最大出力、始動方式、変速段数、寸法、耕幅、燃料タンクの大きさ、装備重量の記載と操作マニュアルがあるだけで、アフタケアに耐えられるようなしろものじゃないんだけど。パーツの一覧表も諸元表もなかったはずだ。どうせ例によって旧式だから、部品が駄目になったとしても取り寄せることはできない。汎用部品があったとしても単品の注文であれば馬鹿馬鹿しいほど高価になる。修理をしようにも修理できる人間はここにはいない」
と長谷川は、どうしたものかと思案している。不意に、
「車よっか、列車で行った方が、いいかも知れねぇなぁ」
と川野が居眠りから覚めて独り言のように呟いた。
「そうですね。ハイヤーで行くよりは楽でしょうね」
と言って、長谷川は早速ターミナル駅に電話で問い合わせた。
大きな飴玉をしゃぶっているような英語が受話器に返ってきた。
「ヒジノローマ方面へ行く列車は週日も週末も1日3本で午前9時発と正午発と午後3時発。各駅で急行はない」
と叫んでいる。長谷川の耳と受話器の隙間から漏れ聞こえてくる。
「所要時間は四時間ほどだから、夕方までに農業試験場に到着するように午前中の列車で行くことにした方がいいな」
と長谷川が受話器を置き、土岐に説明する。振り向いて川野に言う。
「土岐と一緒にヒジノローマに行って、わたしはとんぼ返りで戻ってきます。明朝はこちらに寄らずに、直接駅に直行しますので、事務所宛のeメールの処理、お願いできますか?」