「インターネットの懸賞で海外旅行の当たったことがあるそうだ。当てるコツは職業欄に、〈外務省〉と太字でクリアにこれ見よがしに書き込むことだそうだ。『ついでだから、現地大使館を表敬訪問してきます』としゃあしゃと臆面もなくぬかして懸賞で当たった航空券を夫人に使用させ、自分の渡航費を事務局に捻出させた。渡航先がトルコだったので、経費を理由付けるのに困ったそうだ。事務局長が、『この財団法人の設立趣意書では、アジア諸国との経済・文化交流の促進とあるので、トルコはちょっと』と承服できないと言うと、『あなた、何言ってるんですか、トルコは小アジアじゃないですか』とぬかしたそうだ。事務局長はお土産に貰ったカッパドキアの絵葉書を破り捨てたそうだ」
と両手で破るマネをして、
「専務理事の帰宅は四時過ぎ。規程上は五時までの勤務のはずだが、五時を過ぎるとラッシュに引っかかるからという理由で切り上げる。『どうせ仕事がないから、皆さんのお邪魔にならないように、おさきに失礼。皆さんも適当に切り上げてお帰り下さい』とハイヤーを電話で呼びつけさせる」
と右手でこぶしを作って耳に当て、
「しいて仕事があるとすれば、補助金を外務省から取ってくることだ。その補助金は専務理事の俸給と彼に関する放蕩の諸経費でほぼ消える。国際電話で問い合わせたら、その専務理事の話では、『派遣員はすでにこの財団法人に所属していない。公式の派遣期間は一年だが、その期限は一昨年で切れている。この男の場合、現地の要望と本人の希望から更に一年延長された。その延長期間も去年切れている。規程上、二年を超えて派遣員の人件費を予算に計上できない。それで、彼の派遣員としての身分は昨年失効した。一旦退職し、現在の身分は嘱託だ。こちらから依頼する仕事があれば、それなりの報酬は支払われるが、何もなければ原則無給。今は一銭も支払っていない』ということだ」
と言いながら象牙の箸を置き、