「前任者の話では農業関係の援助では世話になっているとのことだった。専務理事は小柄で痩せぎすで頭のてっぺんの毛が束になって突っ立っている啄木鳥のようなおばさん顔の初老の男だ。その財団法人は貿易センタービルの十四階にあった。十三階がなかったので中継階の十二階でエレベータを乗り換えるときにちょっとまごついた。午前中十一時ごろ事務局に着くと愛想の悪い化粧下手な受付嬢が黒縁眼鏡のずんぐりむっくりの事務局長に引き合わせてくれた」
と駐車場の方に目線を送りながら、
「嵌め殺しの窓際の革張りの応接セットでむかい合うと、その事務局長はクオーツの壁時計を見ながら、『十時にハイヤーが自宅に迎えに行っているので交通渋滞に巻き込まれていなければ、もうそろそろ着くころです。ハイ』と揉み手をした。よくみると手垢をこすっていた。右手の親指の腹で左手の親指から順に小指まで丹念にこすりあげていた。適度な量になると丸薬状にして応接セットの厚手のガラスの灰皿に弾き落としていた」
と右手の親指と人差し指の腹をこすり合わせて、
「それから専務理事の日常業務を羨ましさと苦々しさの入り混じった表情で説明してくれた。専務理事は十一時すぎに到着し、朝刊六紙を読む。自宅では取っていないそうだ。着任前は五紙だったが、着任後スポーツ紙が一紙増えた。それから近場の同期生や外務省に電話して昼食を誘う。一人だと交際費で処理できないからだ。本人は、『これも情報収集業務の一環だ』と言っているそうだ。付帯設備のサロンを使うことが多いらしい。常駐のコックはそのために十時ごろに出勤する。昼食を終えて自室に帰ってくるのは二時ごろ。それから夕方までインターネット三昧」
と皿の上で両手でタッチタイピングをしながら、