と言いたげに口を歪める。
(小馬鹿にされたときは殺してやろうかと思うこともあるのではないか)
と土岐は忖度する。
(悔しさに夜半寝付けずに胃がきりきりと痛むときもあるのではないか)
とも推察する。しかし、大使館は長谷川の会社にとっては最大のクライアントだから、あからさまに不快感を表すことも口に出すこともできない。会社勤めの辛いところだ。
 そのことを加藤も薄々気づいているのかも知れない。
 土岐にとって加藤の精神構造はまったく理解できない。
(何かの拍子に油断して不図見せる長谷川の不満げな表情を快く思っていないかも知れない。加藤にとっても長谷川の会社は最大のベンダーだから不快であってもこうして付き合わなければならない。加藤はそのことを堪えられないほど不愉快と思っているのかも知れない。だからといって@I kill you@とメールで打つことはないだろう。)
 でもそれはあくまでも土岐の見立てだ。人の心は所詮わからない。
 そこにシュリンプスープがやってきた。そこで長谷川は加藤のカラのコップにビールをゆっくりと注ぐ。加藤はビールの泡が嫌いなようだ。泡立たないようにコップをビール瓶の口に傾けた。
 ウエイターがスープを銘々の小カップに取り分ける。
 加藤はそれを斜めに見ながら、不意に声を潜めた。
「実はヒジノローマに行って貰いたいんだが」
と用件を切りだしてきた。
 長谷川は思わず、鸚鵡返しに、地名を繰り返した。
「ヒジノローマ?」
と都市名は知っているようだが頓狂に問い質した。
「いわくつきの、農業試験場のあるところ」
と加藤は鷲鼻の右の丸薬大の毛の生えたほくろをさする。
 そのほくろを土岐は、
「はなくそ」
と声を出さずに呼んだ。
 長谷川は土岐と加藤を交互に見ながら話し始めた。
「三年近く前、首都のフォート地区の港からポンコツトラックに耕運機を乗せて、着任早々にヒジノローマへ行ったことがあります。耐用年数をとうにすぎていたピックアップトラックは板ばねがほとんど効いていなかったんで、舗装されてない道路の凸凹がじかに尾てい骨から頭のてっぺんにびんびん伝わってきて、内臓がひっくり返ったまま安手の首振り人形のようになって、岩だらけの殺伐とした荒れ野をトラックで一日中走り続けたんです」
と上体を揺らしながら、