と彼は自分で納得しながら、想い起こすように幾度も頷く。
「わざわざ財布を出させ、ベッグするのは、ベガーの仁義に反する。何のサービスも提供していないのだからペーパーマネーを貰ってもいけない。貰っていいのはコインだけ。あの婆さんは君がチェンジのコインを全部三輪タクシードライバーにやるのをウオッチしていた。だから小娘に、『やめろ!』と怒鳴った。行儀作法を教えたんだ」
と長谷川の胸のあたりに人差指を向けて、
「だいたい、タクシーで、ここに来た客は、チェンジを、チップとして、ドライバーにやるのが普通だから、レストランから出てきた客から小銭を貰うのが筋だ。このレストランはビルがレジだから、チップはテーブルに置き、チェンジはレジで受け取る手筈だ」
と加藤はビール瓶の口を土岐の鼻先にむけた。
土岐は慌ててビールを少し口に含む。コップを差しだした。加藤に酌をするのを怠っていた。ビールを注いでくれという催促だ。
室内の白い漆喰の天井で黒い三葉の扇風機が二台回っていた。カラカラと乾いた音を立てている。天井から伸びた支柱が羽根の回転とともに小さな円を描いていた。
先刻から振幅の大きさが気になった。今にも回転しながら線香花火の火玉のようにドスンと首が落ちてきそうで気に掛かった。
長谷川が土岐の不安そうな表情に気づいた。
「この扇風機見てると風の通り道になっている内陸部の山すそに押し売るようにして設置した発電用の風車のこと連想するんだよね」
加藤はその話にのってこない。長谷川の話を無視して、
「御社の本社の方から電子メールが入っていると思うが」
と加藤は来訪する外務大臣の話を切りだしてきた。
「大臣がやってくる表向きの目的は去年この国の外務大臣が訪問したことに対する返礼。本音は隣国に立ち寄ってこの国を素通り出来ないということ。くるとなれば交換公文を作成しなければならない。フレンドシップやトレードやインベストメントの促進は謳い文句。本当の目的はアシスタンス。援助案件の拾いだしでは君にも協力願った。あとはスケジュール。合いたい人、合わせたい人、合いたいと言ってくる人、行きたい所、行かせたい所、そして時間の調整。大使館員なんて、ていのいい雑用係で便利屋でガイド。私は、こんなことの為に、わざわざ外務省に入ったんじゃない!本当に」
「わざわざ財布を出させ、ベッグするのは、ベガーの仁義に反する。何のサービスも提供していないのだからペーパーマネーを貰ってもいけない。貰っていいのはコインだけ。あの婆さんは君がチェンジのコインを全部三輪タクシードライバーにやるのをウオッチしていた。だから小娘に、『やめろ!』と怒鳴った。行儀作法を教えたんだ」
と長谷川の胸のあたりに人差指を向けて、
「だいたい、タクシーで、ここに来た客は、チェンジを、チップとして、ドライバーにやるのが普通だから、レストランから出てきた客から小銭を貰うのが筋だ。このレストランはビルがレジだから、チップはテーブルに置き、チェンジはレジで受け取る手筈だ」
と加藤はビール瓶の口を土岐の鼻先にむけた。
土岐は慌ててビールを少し口に含む。コップを差しだした。加藤に酌をするのを怠っていた。ビールを注いでくれという催促だ。
室内の白い漆喰の天井で黒い三葉の扇風機が二台回っていた。カラカラと乾いた音を立てている。天井から伸びた支柱が羽根の回転とともに小さな円を描いていた。
先刻から振幅の大きさが気になった。今にも回転しながら線香花火の火玉のようにドスンと首が落ちてきそうで気に掛かった。
長谷川が土岐の不安そうな表情に気づいた。
「この扇風機見てると風の通り道になっている内陸部の山すそに押し売るようにして設置した発電用の風車のこと連想するんだよね」
加藤はその話にのってこない。長谷川の話を無視して、
「御社の本社の方から電子メールが入っていると思うが」
と加藤は来訪する外務大臣の話を切りだしてきた。
「大臣がやってくる表向きの目的は去年この国の外務大臣が訪問したことに対する返礼。本音は隣国に立ち寄ってこの国を素通り出来ないということ。くるとなれば交換公文を作成しなければならない。フレンドシップやトレードやインベストメントの促進は謳い文句。本当の目的はアシスタンス。援助案件の拾いだしでは君にも協力願った。あとはスケジュール。合いたい人、合わせたい人、合いたいと言ってくる人、行きたい所、行かせたい所、そして時間の調整。大使館員なんて、ていのいい雑用係で便利屋でガイド。私は、こんなことの為に、わざわざ外務省に入ったんじゃない!本当に」