入り口の脇の駐車場やベランダから見える裏庭がひどく眩しく見えた。自然光に近い分、室内よりもベランダの方が明るく感じられた。
 室内を凝視する。庭の白い大理石の噴水に目をやると眼球の奥が痛くなった。
 噴水の水は出ていない。噴水口が半分、ガジュマルで覆われていた。小さな池の白い大理石の底に干乾びた葉が反り返って微風に揺れている。ムカデカズラの細い緑の葉の間に白熱の日差しが生ぬるい風とともに踊っていた。
 三人とも席に着く。
 ウエイターが先刻のテーブルの上から手書きのメニューを持ってきた。ベージュのB3二つ折りの厚手の画用紙。左右の下の隅が手垢で擦り切れている。
 加藤が広げる。メニューの上の角が土岐の鼻先にきた。汗の臭いがかすかにした。
 加藤はローカルビールを注文した。
 長谷川が場つなぎに話し出した。
「着任早々うっかり、ホテルの水道水を飲んだことがあったんです。その晩、腹部が激痛に襲われ、一晩中、悶々として、出国時に持参してきた常備薬を飲んだけど、まったく効かなくって、このまま死ぬんじゃないかと思ったことがあります。『なんと情けない死に方か』と悲嘆に暮れたまま、脂汗とともに朝を迎えて。それからは水分はローカルビールで補給することにしました」
と下腹部を右手の平で抑えながら、
「半年ばかりでアルコール依存症になって一日中ビールを手放せなくなって一年したら胃潰瘍になって血を吐いたあとビールを受け付けなくなったんでアルコール依存症が治りました。半年ほど断酒してたら胃潰瘍が治って、それからは週に二、三回のペースで呑むようになって透明な中瓶に入った黄色いローカルビールを見るとそうした三年前の着任当初の一連の記憶が瞬時によみがえるんですよ」
 その話にどう応えていいのか、土岐には分らない。
 加藤も何の反応もせずに黙っている。
 ウエイターがビールの注文を書き込む。ボールペンの尻を真黄色の歯で噛んでいる。料理のオーダーを素っ頓狂な顔で待っている。
「まずビール。すぐもってこい」
と加藤が居丈高に命じた。それから長谷川に顔をむけた。
「オーダーは、いつものでいいかな?」
と否という返事をまったく予想していない口調。使用人か下僕に対するかのようだ。おしきせがましく訊いてくる。土岐の方はまったく無視している。
「ええ、いつものでいいです」
と長谷川はなげやりに答える。