フォート地区に差し掛かった交差点の赤信号で停車した。バックミラーで運転手が恨めしそうにこちらに憎悪の視線をむけている。
(I kill you)
と凄みそうな剣幕だ。
 再び走り出す。左手の海側の広大な空き地を長谷川が指さした。
「あれは競馬場の跡地だ。十年前の左派政権の誕生以来、使用されてない。博打のない社会というお題目を実現するのも結構だが、おかげで財政収入が減少した。清濁あわせのむ姿勢が政治には必要だ。男女関係もそうだ」
「君は、自分の性癖を正当化しようというのか?」
「いや程度の問題だが、ものごとには裏と表がある。表が好きで裏が嫌いだという人間が、表が嫌いで裏が好きだという人間を一方的に非難するのはどうかな、と思うだけだ」 
 芝生の上に砂がこんもりと積もっている。まだらな砂浜になっている。国道との境界になっている歩道も斑模様に砂を被っている。浅い塹壕のような水路の溝が砂に埋もれている。人が歩いていなければそこが歩道とはわからない。
 長谷川が今度は右手を指差す。
「あれが国会議事堂だ。百年前の植民地時代の総督府をそのまま後生大事に使ってる。財政欠陥で大修繕もしてないんで閉会中は忽然と人跡の途絶えた廃墟のようになってる」
 やがて左手の海岸線に巨大な造船所が見えてきた。道が良くなった。長谷川の声がはっきり聞こえてきた。
「あのシップヤードは我が国の借款で建造されたんだ。当然わが社と開発銀行が一枚かんでる。沿海で近海魚を獲る程度の漁船を造船するのに、これほど巨大なドックは必要ない。しかし必要がないのは運輸船舶省が監督する漁民達で建造を手がける側には十分な利益を上げるためには、この程度の規模が最低限だ」
と目線をドックに張り付けたまま首をひねり、
「出張してきた邦人の人件費がコストをプッシュアップしてる。所長の月給にしてもショスタロカヤの二十倍程度になる。ドックだけじゃ船は造れない。メンテナンスも含め継続的に輸入しなければならない機材や用役のマージンで所長や所長代理の高給が維持される。今年も輸入代行業務でたらふく儲けさせてもらってる」
と顔を前方に戻し、