外気を暑いと感じる体表感覚が吹き飛んだ。その怜悧な表情を理解することはできた。受け入れることはできなかった。
「ありがとうございます。でも、まだ本人の了解を得ていないので破局があるかもしれません」
と長谷川が切り返す。
「そういう、ひとに気を持たせるような言い方はやめて。相手のことを考えてそういうのかも知れないけれど、いつもそうとは限らないのよ。あなたの言ったことを相手がどう受け取るかを考えないと。受け取り方は相手によって違うのよ」
と最初のうちは、土岐の存在を気にかけて冷静を装っていた。徐々に感情が込められて行くのが分かった。
「ほんとうに、こっちが勝手にそう思い込んでいる段階なんで」
と長谷川は往生際が悪い。
「そういう段階で、さも結婚が決まってしまったかのようなメールを打ってしまうわけ?」
長谷川の斜め後ろに立っている土岐まで詰問されているような気になる。
「すいません。なにもかもあやまります」
「謝れば、なんでも済むとは限らないわ」
二人とも、ソファーに掛けもせず、応接間のドアの傍らで話し続けた。慶子は視線を合わせようとはしない。応接間の窓から伺える庭木に目を据えていた。
「おとといの夜、ワインを二本カラにしたところで記憶を失ってしまったんですが、そのあと何があったか教えてもらえます?」
と長谷川が言っても、慶子は目線を合わせようともしない。
「優子さんに聞いて」
と感情を見事なまでに抑制した口調で言う。呼吸の乱れが、ベージュの花柄模様のチュニックの上からうかがえる。
「いや、彼女は加藤夫人に聞いてくれって」
と長谷川が言っても慶子は応接間のペルシャ絨毯に眼を落としたままだ。浅く腕を組んだまま顔を上げない。
「それじゃ、お友達の土岐さんに聞いて」
ととばっちりが土岐に及んだ。
「すいません。僕も記憶がないんです」
と土岐もとりあえず謝る。
「そう。それじゃしかたがないわ。わたしのほうが年長だから教えてあげるわ。言ってあげないと蛇の生殺しになるかも知れないから」
そういいながら、彼女はやっとソファーに腰掛けた。土岐と長谷川にソファーをすすめることはしない。彼女は窓の外に視線を送りながら、遠い昔話のように話し始めた。
「ありがとうございます。でも、まだ本人の了解を得ていないので破局があるかもしれません」
と長谷川が切り返す。
「そういう、ひとに気を持たせるような言い方はやめて。相手のことを考えてそういうのかも知れないけれど、いつもそうとは限らないのよ。あなたの言ったことを相手がどう受け取るかを考えないと。受け取り方は相手によって違うのよ」
と最初のうちは、土岐の存在を気にかけて冷静を装っていた。徐々に感情が込められて行くのが分かった。
「ほんとうに、こっちが勝手にそう思い込んでいる段階なんで」
と長谷川は往生際が悪い。
「そういう段階で、さも結婚が決まってしまったかのようなメールを打ってしまうわけ?」
長谷川の斜め後ろに立っている土岐まで詰問されているような気になる。
「すいません。なにもかもあやまります」
「謝れば、なんでも済むとは限らないわ」
二人とも、ソファーに掛けもせず、応接間のドアの傍らで話し続けた。慶子は視線を合わせようとはしない。応接間の窓から伺える庭木に目を据えていた。
「おとといの夜、ワインを二本カラにしたところで記憶を失ってしまったんですが、そのあと何があったか教えてもらえます?」
と長谷川が言っても、慶子は目線を合わせようともしない。
「優子さんに聞いて」
と感情を見事なまでに抑制した口調で言う。呼吸の乱れが、ベージュの花柄模様のチュニックの上からうかがえる。
「いや、彼女は加藤夫人に聞いてくれって」
と長谷川が言っても慶子は応接間のペルシャ絨毯に眼を落としたままだ。浅く腕を組んだまま顔を上げない。
「それじゃ、お友達の土岐さんに聞いて」
ととばっちりが土岐に及んだ。
「すいません。僕も記憶がないんです」
と土岐もとりあえず謝る。
「そう。それじゃしかたがないわ。わたしのほうが年長だから教えてあげるわ。言ってあげないと蛇の生殺しになるかも知れないから」
そういいながら、彼女はやっとソファーに腰掛けた。土岐と長谷川にソファーをすすめることはしない。彼女は窓の外に視線を送りながら、遠い昔話のように話し始めた。


