アイキルユウ

「多くの企業は、出身大学で新卒を雇うが、これは正しい。なぜならば、十八歳時点の偏差値は一生変わらないからだ。十五歳程度であれば、努力次第で偏差値が上がる可能性はあるが、十八を過ぎたらその可能性は限りなくゼロに近いというのが彼らの前提だ。君の経験でどうだ?十八歳時点で低偏差値だった人間が二十歳過ぎてから、高偏差値になったという事例を知っているか。私の場合は、低偏差値の人間とは小学校以来かかわっていないので、小学校の同窓会でそれを確認することが出来た。高卒の連中は自営業とか有限会社とか、わけのわからない職業についていた。まあ、それで食べているんだからそれはそれなりに、社会的なニーズがあるということだろう。大卒の連中も、低偏差値大学出身のやつらは、非上場ばかりで、聞いたこともないような会社に勤務していた。それはそれで、立派なことだが、年収を聞いて驚いた。なんと長谷川君の年収の五分の一だ。これじゃ、貧富の差が生まれるわけだ。ざっと、生涯所得を計算してみても、長谷川君の場合は五億ぐらい、連中はせいぜい、六七千万程度だろう」
 たまりかねて、土岐は反論してしまった。
「それはそうかも知れないですが、でも、まあ、人生カネだけでもないと思うんですが」
と言うと、土岐が言い終えないうちにまた話しだした。
「収入と偏差値には高い相関関係がある。もちろん,例外はある。偏差値の高い者は高い者同士で群れを成す。一部上場企業の高所得グループがそうじゃないか。そういう連中同士で巡り合って姻戚関係を結ぶ。偏差値には多少の遺伝性があるから、そういう階層が再生産される。高偏差値と高所得の親が高偏差値と高所得の子供を育む。我が国にはこの国のような身分制度はなくとも、厳然とした階層が存在している。こうした認識を誤ると今回のようなすったもんだに巻き込まれる。君も注意した方がいいよ」
「低所得で低偏差値でも幸福な人はいるんじゃないかと思います」
と土岐が言いかけたら電話が切れた。


優柔の断捨離(エピローグ)
 
 翌朝、長谷川と少し早めに事務所に出勤した。長谷川が所長に依頼されていた外務大臣歓迎の雑務がかなりあった。長谷川は出勤してすぐ、電子メールを開けた。土岐は隣の席から液晶画面を眺めた。長谷川は最初に、メールを探している。ハートマークに挟まれた件名?ノマノマへ?をクリックした。