アイキルユウ

「みちゃったんですぅ。ふたりがだきあっているのを。こんなことをいえるのは、あなたしかいない」
 二人とも多少酔っ払っていた。運転を優子から慶子に代わるときに接触した。それが夜目に抱き合っているように見えたのではないか。しかし、二人とも酔っ払っていたことを知っていたとは迂闊には言えない。
 それにしても、車は優子のフランス車だから、慶子がなぜジャナイデスカ宅まで同乗してきたのか。慶子は足がないのだから、先にヘンサチ宅に寄り、慶子を落として来なかったのはなぜか。
「二人はどこにそんな夜遅くまでいたんですか?」
「ホテルのラウンジだというんですけどぉ。どのホテルとは言わないんですぅ。酔っていて、どこだかわからなかったってぇ、白々しい嘘をつくんですぅ」
 本当のことを言うよりは、嘘とはわかっていても、その嘘の方が、ジャナイデスカはまだ救われるかも知れない。
「じつはなんとなくぅ思い当たる節があるんですぅ。夜、求めてもぉ疲れているとかぁ、生理だとかぁ、眠いとかぁ、明日またぁ、とか言ってぇ断ることが最近多くなったんですぅ。その理由がレスビアンだったなんてぇ。こっちが仕事している午前中、ふたりはしょっちゅうテニスしていたというけど、そういうことだったんですぅ」
と撫で肩をさらに落とす。ついでに平焼きパンにはさんだ毟り取ったチキンもテーブルの上に落とした。
 そこに現地人の男二人が階段を上ってきた。隣のテーブルについた。二人とも黄ばんだ半袖シャツに、国防色のズボンにビーチサンダルという格好だ。
 このままジャナイデスカが昨夜のことに拘泥すると、真実にたどり着く恐れがあった。
 長谷川は保身のため彼の関心を別のことに振りむける必要性を感じたようだ。
「これは誰かから聞いたんだけど、奥さん、妊娠したらしいですよ」と言うとジャナイデスカの体の全ての部位が停止した。
 数秒して最初に動きだしたのは瞳だった。黒目がせわしなく上下左右に動く。暫く口を開けたまま長谷川の顔を凝視し続けた。ふと眼を伏せると、
「ほんとですかぁ?ほんとならぁ。でもぉ。そんな大切なことを、なんでボクにさいしょにいわないんだろう」
と呟く。挑むように目を上げた。
「それ、だれからきいたんですか?」
と長谷川に詰問する。長谷川は弱ったような顔をする。あたりさわりがないと考えて、