ジャナイデスカは夢遊病者か、やじろべえのように心持左右に揺れるようにして歩く。地面を踏みしめているという感じがない。重心が低い空間をさまよっている。
一階は地元民で満席だった。一階入り口の傍らの狭く急な板階段を上る。二階の窓際のテーブルに着いた。他に客はいなかった。メニューはタンドリチキンしかない。あとは、平焼きパンを何枚たのむかだ。
ジャナイデスカは三人合計で三枚注文した。料理がくるまでジャナイデスカはベニヤ板にニスを塗っただけのテーブルに両肘を突いていた。右手の親指と人差し指で耳の上辺りの頭髪を捩り始めた。何か困ったことがあったり手持ち無沙汰になると始める癖のようだ。
「なんか、食欲もないみたいだね」
と長谷川がいたわるように言う。
「昨日もよく眠れなくってぇ、こんなことうまれてはじめてぇ」
と目をこする。瞼が腫れぼったい。なにがショックなのか興味があった。長谷川は彼の方からしゃべりだすまで聞きださない。
香辛料をたっぷりまぶしたタンドリチキンが運ばれてきた。チリで真っ赤だ。赤い辛子の中に刻んでまぶした緑の葉のかけらが散見される。薄っすらと焦げ目がある。見た目は食欲をそそるものではない。
ナイフもフォークもない。まだ熱い焼け爛れたチキンを手でむしって食べる。空腹であれば美味しく食べられそうな味だ。一匹のオーダーで正解だった。
程なく、平焼きパン三枚とヨーグルトが運ばれてきた。タンドリチキンをむしる。適当な大きさにちぎったパンにはさむ。ヨーグルトに浸して食べる。土岐の口にはうまいわけがない。
ジャナイデスカが土岐を一瞥した。長谷川の方を向く。唇を突き出す。悄然と話し始めた。
「きのうの夜、大使館で外務大臣歓迎の準備作業のお手伝いがあって、研修生に送ってもらって、帰宅したのが遅かったんです。優子がいないんでびっくりして、携帯に電話しても圏外かスイッチオフで、加藤夫人と一緒かと思って彼女の自宅に電話したら、彼女もいない。いったい、こんな夜中にふたりでなにしてるんだろうかと、寝付けないから仕方なくリビングで空輸してもらったビデオみてたら、そとで車のとまる音がしたんで、窓から外をみたら」
といいかけて一息ついた。言うまいか、言うべきか、躊躇している。目線が乱雑に毟り取られたタンドリチキンのあばら骨のあたりを揺れ動いている。
一階は地元民で満席だった。一階入り口の傍らの狭く急な板階段を上る。二階の窓際のテーブルに着いた。他に客はいなかった。メニューはタンドリチキンしかない。あとは、平焼きパンを何枚たのむかだ。
ジャナイデスカは三人合計で三枚注文した。料理がくるまでジャナイデスカはベニヤ板にニスを塗っただけのテーブルに両肘を突いていた。右手の親指と人差し指で耳の上辺りの頭髪を捩り始めた。何か困ったことがあったり手持ち無沙汰になると始める癖のようだ。
「なんか、食欲もないみたいだね」
と長谷川がいたわるように言う。
「昨日もよく眠れなくってぇ、こんなことうまれてはじめてぇ」
と目をこする。瞼が腫れぼったい。なにがショックなのか興味があった。長谷川は彼の方からしゃべりだすまで聞きださない。
香辛料をたっぷりまぶしたタンドリチキンが運ばれてきた。チリで真っ赤だ。赤い辛子の中に刻んでまぶした緑の葉のかけらが散見される。薄っすらと焦げ目がある。見た目は食欲をそそるものではない。
ナイフもフォークもない。まだ熱い焼け爛れたチキンを手でむしって食べる。空腹であれば美味しく食べられそうな味だ。一匹のオーダーで正解だった。
程なく、平焼きパン三枚とヨーグルトが運ばれてきた。タンドリチキンをむしる。適当な大きさにちぎったパンにはさむ。ヨーグルトに浸して食べる。土岐の口にはうまいわけがない。
ジャナイデスカが土岐を一瞥した。長谷川の方を向く。唇を突き出す。悄然と話し始めた。
「きのうの夜、大使館で外務大臣歓迎の準備作業のお手伝いがあって、研修生に送ってもらって、帰宅したのが遅かったんです。優子がいないんでびっくりして、携帯に電話しても圏外かスイッチオフで、加藤夫人と一緒かと思って彼女の自宅に電話したら、彼女もいない。いったい、こんな夜中にふたりでなにしてるんだろうかと、寝付けないから仕方なくリビングで空輸してもらったビデオみてたら、そとで車のとまる音がしたんで、窓から外をみたら」
といいかけて一息ついた。言うまいか、言うべきか、躊躇している。目線が乱雑に毟り取られたタンドリチキンのあばら骨のあたりを揺れ動いている。


