アイキルユウ

「それは了解したけれど、今日は代休でも良いよ。酒臭ぇいぞ」
と彼は無理するなと労うようにして気を遣ってくれた。
「とりあえず、今朝のメールを整理しなければならないんで」
と長谷川は申し出て、マウスを握り締めた。
 土岐は長谷川の隣の机についた。長谷川に指示されるままパソコンのファイルを引き出した。出張報告書の空欄に必要事項を記入させられた。途端にエンドルフィンが分泌された。心身がいやされるようなIT感覚に捉われた。
 長谷川は本社からのメールを開く。件名をざっと見渡している。
「例によって佐知子からのメールが日めくりのように来てる。それを読むのは後回しにして、急を要するメールのないのを確認し、大使館のヘンサチに電話をかけるか」
と独り言。固定電話のプッシュボタンを押す。だれか出たようだ。だらしなく押し当てた受話器から、相手の声が漏れてくる。
「多分、午後には、大臣より一便先に、戻ってくると思いますが」
「帰ってきたらこちらに連絡をするように伝言願えますか」
と言ってすぐ切った。土岐と目が合った。長谷川は言い訳のように、「出たのは本国から派遣されたアルバイトの研修学生だ」
と吐き捨てるように言う。
「詳しい伝言を頼むわけにはいかないので、帰ってきたら事務所に連絡してくれるように頼んだ」
と付け足す。
 土岐は、
「出張報告書に記入したけど」
と言う。長谷川はUSBメモリーを取り出して、
「ファイルを貼り付けて、こっちにくれ」
と言う。USBメモリーを渡すと出張報告書に金額を記入する。プリントアウトして、所長の机に持っていこうとする。所長は不在だ。
「トイレか、コーヒーか」
と長谷川はメールを読み始める。
 所長の机の上にマグカップがある。多分トイレだろう。
 所長が戻ってきた。
 長谷川は立ちあがって出張報告書を持っていく。金額について所長と長谷川がやりとりをしている。
 土岐はそれとなく、長谷川が開けたメールに目を置いた。佐知子からのメールだ。最初は、日曜日のメールだ。