アイキルユウ

と二人がおしゃべりしている間に長谷川は旧知のボーイからワインリストを取り寄せた。旧宗主国から輸入された赤ワインを勝手に注文した。注文し終えて、二人の意見を聞かなかったことに自らの身勝手を反省してる素振りを見せた。それから優子にはあまり飲ませないようにして、長谷川は赤ワインを飲み続けた。
(酩酊して自尊心の帳が解ければ、彼女もただの女になる。ただの女になれば抱かないわけにはいかない)
と長谷川は考えているのではないか。赤ワインのボトルを傍らに置いている。要請がなければ慶子には注がないようにしている。
 メインディッシュが運ばれてきた。赤ワインのボトルは空になっていた。
「メインディッシュがきたのに肝心のワインがなくなって」
と慶子がしとやかな声音で嘆息した。
「もう、ボトルは飲めないんでえ、デカンタにしますかあ?」
と長谷川の呂律があやしくなっている。
「そんなの、あるの?でも、デカンタじゃ、中身があやしいでしょ?お食事中にボトルをあけられなくっても、残りをあなたのお部屋までお持ちになったら?」
と言う慶子の意見に長谷川は従う。
「そうしますかあ。そうするんだったらあ、赤ワインを急いで飲むことはなかったあ」
「なんで、急いで飲まなければならないの?」
と慶子に言われて、長谷川は返答に窮した。
 傍らで優子がわけもなく、くすくすと軽やかに笑っている。そのままの笑い顔で泣き出すのではないかと土岐は心配した。急に飲みすぎて、長谷川が酩酊しているのを笑ったのかも知れない。
 レストラン全体がゆるやかに揺曳し始めるのを土岐は感じた。脳漿が膨張をし始めた。脳動脈のパルスがこめかみを締め付けた。急激に酔いの回ってくるのがわかった。夫人たちのテンションの低い会話が打ち寄せる波のように近づいたり遠ざかったりした。不覚にも、そこで土岐の記憶は途切れた。その後どうなったのか、まったく覚えていない。
 

懈怠の夢のその先(月曜日)
 
 気がつくと土岐は長谷川の部屋のベッドの中にいた。飛び起きて記憶をたどろうとした。何も覚えていない。ベッドカバーやシーツに脂粉の匂いがこびりついていた。誰かと寝たのか。覚えていない。夕食前に長谷川が優子と抱き合ったときの名残なのかどうかもわからない。よろめくように立ち上がった。
 脱ぎ捨てた衣服が床に散乱していた。