アイキルユウ

「席が決まったら、荷物を部屋におきにいきます」
と土岐は彼女らにショルダーバッグを見せた。
「ぼくもちょっと、部屋へ」
と長谷川も言う。すると席を決める途中で、優子が立ち止まった。
「わたし、ちょっと手を洗いたいので」
とエントランス右手のレストルームに消えた。
 慶子と長谷川が二人で席を決めた。
 土岐は思いだしたように言った。
「荷物を部屋に置いてきていいですか。オーダーはお任せします」
と先に土岐が席を立った。階段を上りかけて、一階のエレベーターホールを見た。レストルームの傍らで優子が人目を憚るように縋るような眼をして立っていた。
「それじゃ、ぼくも」
と言う長谷川の声が階段の真下から聞こえた。
 土岐は二階の自室へ階段を駆け上った。ズボンのポケットから鍵をだした。ドアを閉めショルダーバックをベッドの上に放り投げた。一階のレストランに戻ろうと、ドアに近づく。廊下から、
「トイレの方はいいんですか?」
と言う長谷川の声がした。鍵を隣のドアの鍵穴に差し込む音がする。ドアを閉めた途端、ベッドの上に二人とも重なるように倒れこむようにベッドの軋む音がする。
 土岐は隣室との壁際に置かれている箪笥の上に上った。立ち上がると頭が天井に着く。天井から1フィートほどの幅の欄間のようなラーマヤーナの透かし彫りがある。そこから長谷川のベッドが俯瞰できた。長谷川がベッドの上でうつぶせになっている。その背中に優子がおおいかぶさっている。彼女のふくよかな胸のウイロウのような弾力が長谷川の背中一面に広がっている。
 長谷川は顔からベッドに突っ込んだ。息苦しくなったようだ。口だけ横にむける。その唇を彼女の唇が求めてきた。二三分、長谷川は彼女のなすがままに任せていた。長谷川の反応が弱い。
 彼女がじれたように唇を甘く噛んだ。
「いてて」
と長谷川がささやくように叫ぶ。
 やがて痛みに耐え切れなくなった長谷川は、
「いたいよう」
と言っておもわず唇を引っ込めた。それでも彼女の唇が追いかける。腹ばいで首だけ斜め後ろの無理な姿勢のせいか次第に長谷川の首筋が痛くなってきたようだ。長谷川は首を元に戻すと両腕を立てて起き上がろうとした。彼女が背中にしがみついたまま離れなかった。かなりきつい腕立て伏せだった。長谷川はやっと、息をついた。