終着駅の一つ手前の駅を出た。車掌の検札はもうなかった。
一等車と二等車の連結部分に屯していた乗客が薄暗がりの中をぞろぞろとゾンビのように無言で入ってきた。同じボックスに親子連れらしい夫婦と少女が座り込んできた。よく目を凝らさないと彼らの顔つきはわからない。かろうじて少女の髪がお下げ髪であることがわかった。隣に顔をむけると間近に男の顔があった。慄然というほどではないがなんとなく驚いているような雰囲気を感じた。あとから一等車に入ってきた連中は息を殺すようにひっそりと空席に座り込んだ。不意に乗客の一人が懐中に刃物を忍ばせていて他の乗客を襲うのではないかという恐怖に囚われた。
@I kill you@のメールが頭をかすめた。
顔を見られないように顎を引いて窓外に目をむけた。
夜空に星は出ていた。昨夜の千分の一にも及ばなかった。代わりに眼の高さに無数の青白い小さな明かりが浮遊していた。クリスマスツリーの電飾のように大木の輪郭が暗闇に浮かび上がっていた。柔らかく冷たそうな小さな明かりは草原や小川の風景に沿って黄泉の国からの遣いのように霊気を放って漂っていた。小川に沿ってちりばめられた揺れ惑う数多の明かりは、大観衆のペンライトのようにも見えた。夥しい数の冷ややかな光源に、
「蛍」
という言葉が思わず口をついて出た。冷菓のようにいまにも溶けだしそうな明かりは終着駅に近付くにつれて何の趣もなく数を増してくる民家の無粋な照明の中に消えていった。
終着駅に着いた。腰の辺りに重い疲労感を覚えた。昨日から列車とハイヤーの座席に合計で十時間ほど腰掛けている。プラットフォームに降り立った。知らないうちに腰の辺りを摩っていた。
改札口あたりだけにワット数の低い照明があった。始まったばかりの夕闇の中にそこだけぽっかりと浮かんでいた。
虎刈りの報酬(日曜日晩餐)
土岐が改札口を出る。
長谷川と優子が困惑したような顔をして立っていた。
「どうしたの?」
と声を掛けたくなった。傍らの長谷川が優しく声をかけようと彼女の肩に口を近づけようとした。彼女はさっと身を左にずらした。
不意をつかれて、長谷川は唖然としている。
「お帰りなさい」
と言う声が、彼女が立ち退いた場所のすぐ後ろから聞こえてきた。長谷川はぎょっとして振り向く。慶子だ。
一等車と二等車の連結部分に屯していた乗客が薄暗がりの中をぞろぞろとゾンビのように無言で入ってきた。同じボックスに親子連れらしい夫婦と少女が座り込んできた。よく目を凝らさないと彼らの顔つきはわからない。かろうじて少女の髪がお下げ髪であることがわかった。隣に顔をむけると間近に男の顔があった。慄然というほどではないがなんとなく驚いているような雰囲気を感じた。あとから一等車に入ってきた連中は息を殺すようにひっそりと空席に座り込んだ。不意に乗客の一人が懐中に刃物を忍ばせていて他の乗客を襲うのではないかという恐怖に囚われた。
@I kill you@のメールが頭をかすめた。
顔を見られないように顎を引いて窓外に目をむけた。
夜空に星は出ていた。昨夜の千分の一にも及ばなかった。代わりに眼の高さに無数の青白い小さな明かりが浮遊していた。クリスマスツリーの電飾のように大木の輪郭が暗闇に浮かび上がっていた。柔らかく冷たそうな小さな明かりは草原や小川の風景に沿って黄泉の国からの遣いのように霊気を放って漂っていた。小川に沿ってちりばめられた揺れ惑う数多の明かりは、大観衆のペンライトのようにも見えた。夥しい数の冷ややかな光源に、
「蛍」
という言葉が思わず口をついて出た。冷菓のようにいまにも溶けだしそうな明かりは終着駅に近付くにつれて何の趣もなく数を増してくる民家の無粋な照明の中に消えていった。
終着駅に着いた。腰の辺りに重い疲労感を覚えた。昨日から列車とハイヤーの座席に合計で十時間ほど腰掛けている。プラットフォームに降り立った。知らないうちに腰の辺りを摩っていた。
改札口あたりだけにワット数の低い照明があった。始まったばかりの夕闇の中にそこだけぽっかりと浮かんでいた。
虎刈りの報酬(日曜日晩餐)
土岐が改札口を出る。
長谷川と優子が困惑したような顔をして立っていた。
「どうしたの?」
と声を掛けたくなった。傍らの長谷川が優しく声をかけようと彼女の肩に口を近づけようとした。彼女はさっと身を左にずらした。
不意をつかれて、長谷川は唖然としている。
「お帰りなさい」
と言う声が、彼女が立ち退いた場所のすぐ後ろから聞こえてきた。長谷川はぎょっとして振り向く。慶子だ。


