アイキルユウ

と返信すると、またしばらくして、
@われわれって、それじゃ、おれも軟弱ってこと?@
と口を尖らせている姿が眼に浮かぶ。そこで、土岐は、
@かれが事務所のパーティーに行ったこと知っている?@
と返信した。
@かれって?@
@農業派遣員@
@農業派遣員って?@
@小川伺朗@
@昨日試験場で会ったのが2回目だ。そんなによくは知らない@
と言う長谷川のメールは嘘かもしれないと思った。
 土岐は書かずにはいられなかった。
@牛田夫人と寝たことがあると言ってた@
と土岐は鎌をかけた。
@いつ?@
と言う長谷川のメールにささくれた嫉妬が感じられた。
@彼がこの国に来てしばらく首都に滞在していたとき君の事務所でパーティーがあってそこではじめて牛田夫人にあった@
@そうか、翌日、家に招待したことは聞いたことがある。すると、酒の弱いご主人が酔いつぶれた後ということか@

と長谷川は状況を想像しているような書き方をする。そこで電話がかかってきた。発信者は牛田夫人だ。一瞬土岐はためらったが出た。
「嘘!それを信じたの?わたしのこと、そんな女だと思ってたの!」
と言うなり、泣き声をだし始めた。携帯電話の送話口を口元から遠ざけることなく、幼女のように泣きじゃくる声が、じかに聞こえてきた。この悲しみと侮辱された嘆きを聞けとばかりに、これみよがしの泣き声は三十秒あまりも続いた。思わず携帯電話を耳元から少し離した。号泣するその声が車内に漏れた。逆に耳に強く押し当てた。彼女は土岐が電話に出たと思っていない。土岐はどう言っていいかわからない。とりあえず、何も言わずに電話を切った。
 それから、SNSで長谷川にメールを送信した。
 
@かれがそう言ったのは確かだけど、君には言うべきではなかった。当然、かれの言うことは信じていない。謝る。もう遅いかな@

 SNSはそれで途切れた。
 牛田夫人と長谷川がどういう連絡を取り合ったのかわからない。
 暫くして長谷川から電話がかかってきた。
「出迎えに行くので、一緒に食事しよう。その携帯のSNSメールは牛田夫人にも同時送信されるの気を付けてくれ。それじゃあ」
とまだ何か言いたいようだった。名残惜しそうに長谷川の通話が切れた。
 窓外には夕闇が列車をせかせるように迫っていた。暗色の風景の書割が消えかけたころ、やっと列車が動き始めた。