「もし受賞したとすると、それは人々を欺くことになる。今回は巡り合わせでたままた自分が派遣されましたが、自分と同じ指導のできる人間は我が国には五万といます。でも優秀な大使館の人からの話なんで、自分がわかっている程度のことはわかっているのではないか。つまり自分に受賞に値するような業績のないことを承知で授賞しようとしている。そうであるとすると、このことを何かに利用するのではないか。偽りの授賞だから誰かを騙すことになる。うっかり受賞したら自分が知らないうちにそれにひと役買うことになる。それはいやだ。だから受賞したくない。舌足らずでうまく説明できませんが、たぶん、そういうことじゃないかと思います。確信はもてませんが。もしあなたが褒章をくれるというのなら喜んで貰いますが」
と最後に意味不明のことを言った。彼の言ったことがよく理解できなかった。どう質問していいかもわからなかった。
「気の変わることを期待して、首都で待っています」
と土岐は目を合わせずに願望だけを述べた。車に乗り込もうとした。すると、
「主義も、主張も、信念も、なにも持ち合わせていないですから、ひょっとしたら、気が変わるかも知れないです」
と彼はあたかも他人事のように鼻の頭に小皺を寄せて微笑んだ。
土岐は、蝶番が錆びて脱落寸前のハイヤーのドアを開けた。
「とにかく、首都の駅で待っていますから。たぶんあなたは、自分で自分の気持ちがその日にならなければわからないんだろうと思います。火曜日の昼過ぎに着く列車を昼休みの散歩がてら勝手に出迎えることにします。気が向いたらでいいですから来て下さい。交通費と滞在費はこちらで持つと長谷川が言ってましたから」
と派遣員の重荷にならないように配慮して言い切った。すると彼は、「ほんとうに、すいません。ご苦労様でした」
と心底すまなさそうに深々と頭を下げた。そのとき彼の頭頂に二三箇所のコインほどの大きさの円形の脱毛部分のあるのに気づいた。
土岐は、木板にシートを貼り付けたような後部座席に乗り込んだ。
「来るにしても来ないにしても連絡は不要です。とにかく、来ても来なくても駅に出迎えにいきます。かりに駅まできて、授賞式に出たくなくなっても結構です。それでも構いません。とりあえず、片道の交通費をお渡ししておきます」
ともう一度執拗に念を押した。財布から高額紙幣を抜きだした。
と最後に意味不明のことを言った。彼の言ったことがよく理解できなかった。どう質問していいかもわからなかった。
「気の変わることを期待して、首都で待っています」
と土岐は目を合わせずに願望だけを述べた。車に乗り込もうとした。すると、
「主義も、主張も、信念も、なにも持ち合わせていないですから、ひょっとしたら、気が変わるかも知れないです」
と彼はあたかも他人事のように鼻の頭に小皺を寄せて微笑んだ。
土岐は、蝶番が錆びて脱落寸前のハイヤーのドアを開けた。
「とにかく、首都の駅で待っていますから。たぶんあなたは、自分で自分の気持ちがその日にならなければわからないんだろうと思います。火曜日の昼過ぎに着く列車を昼休みの散歩がてら勝手に出迎えることにします。気が向いたらでいいですから来て下さい。交通費と滞在費はこちらで持つと長谷川が言ってましたから」
と派遣員の重荷にならないように配慮して言い切った。すると彼は、「ほんとうに、すいません。ご苦労様でした」
と心底すまなさそうに深々と頭を下げた。そのとき彼の頭頂に二三箇所のコインほどの大きさの円形の脱毛部分のあるのに気づいた。
土岐は、木板にシートを貼り付けたような後部座席に乗り込んだ。
「来るにしても来ないにしても連絡は不要です。とにかく、来ても来なくても駅に出迎えにいきます。かりに駅まできて、授賞式に出たくなくなっても結構です。それでも構いません。とりあえず、片道の交通費をお渡ししておきます」
ともう一度執拗に念を押した。財布から高額紙幣を抜きだした。


