「農業の生産性があがると、農村にいらない労働者があふれます。いてもいなくても生産量はかわらないんです。だから長男が土地を相続すると次男、三男は農村を追放されます。生産性が低ければ、かれらも必要な労働力だったんですが。仕方なくかれらは現金収入を求めて都市に流れてゆきます。都市がスラム化し、貧困が顕在化します。都会で食いつめて、故郷に帰ることができれば昔の生活に戻り、食べていくことはできるんですが。でも、故郷では長男の生活が確立していて受けいれてもらえません。こういう連中が都市の治安を悪化させます。先進国のようにさまざまな産業が発展して、工場でこういう連中を吸収できれば、問題は深刻化しないんでしょうけど。でも、そういう産業がないから発展途上ともいえるんじゃないでしょうか。この事態を生みだした最初の原因は、じつは農業生産性の向上にあるんです。この農業試験場はその助長にひと役買っています。皮肉な話です」
食事が終わると用はなくなった。ハイヤーの運転手と約束した午後一時にはまだ時間があった。少し早めに州都の駅にむかうことにした。昨日の運転手を探した。玄関に出た。見渡すと門柱の脇の日影に見覚えのあるハイヤーが駐車していた。窓がすべて開け放たれている。前部座席の窓から運転手の裸足の足裏が出ていた。近付いて行った。車内を覗き込む。運転手が助手席を頭にして昼寝していた。運転手を起こす。ゲストルームに戻る。ショルダーバッグに荷物をまとめた。玄関で派遣員と場長に別れを告げた。
派遣員はハイヤーの傍まで付いて来た。別れ際に眩しそうな目をしながら受賞辞退の理由を披瀝した。
「昨晩、寝ながら考えたんです。受賞を断りたい理由はたぶんこういうことじゃないかと思うんです。今回の受賞は自分が求めたものではない。応募したわけでも、推薦されたわけでもない。受賞の理由は高収穫稲の普及と聞きましたが、種は輸入したもので、土壌改良も肥料もすべて本に書かれていることです。自分はただ普通の指導を普通にやっただけで表彰に値するようなことは何一つしていない。これは自分で言うんだから間違いないです」
とうなずきながら、
食事が終わると用はなくなった。ハイヤーの運転手と約束した午後一時にはまだ時間があった。少し早めに州都の駅にむかうことにした。昨日の運転手を探した。玄関に出た。見渡すと門柱の脇の日影に見覚えのあるハイヤーが駐車していた。窓がすべて開け放たれている。前部座席の窓から運転手の裸足の足裏が出ていた。近付いて行った。車内を覗き込む。運転手が助手席を頭にして昼寝していた。運転手を起こす。ゲストルームに戻る。ショルダーバッグに荷物をまとめた。玄関で派遣員と場長に別れを告げた。
派遣員はハイヤーの傍まで付いて来た。別れ際に眩しそうな目をしながら受賞辞退の理由を披瀝した。
「昨晩、寝ながら考えたんです。受賞を断りたい理由はたぶんこういうことじゃないかと思うんです。今回の受賞は自分が求めたものではない。応募したわけでも、推薦されたわけでもない。受賞の理由は高収穫稲の普及と聞きましたが、種は輸入したもので、土壌改良も肥料もすべて本に書かれていることです。自分はただ普通の指導を普通にやっただけで表彰に値するようなことは何一つしていない。これは自分で言うんだから間違いないです」
とうなずきながら、


