アイキルユウ

「同じことを五回いってもわかってもらえないことが多いんです。今言ったことを言わせるとできるので、わかっているのかと思ったら大間違いで、つんぼでないから声は伝わるけれど、理屈は伝わっていないということを理解するのに一年以上かかりました。意図的に努力して計画を立て必要以上に多量に生産するという概念を理解してもらうのに家電製品のカタログの価格に米の収穫量を書きこみました。それだけ米を収穫すればその家電製品が買えるという意味です。二年目にテレビを買った農家があったんですが、たった二局しかないチャンネルの争いで家族が大喧嘩したという例がありました。小作も雇っている大きな農家では二年目に一人一台のテレビを買って、家族がほとんど口をきかなくなったという例もあります。なにが幸せなのか?経済的に豊かになることが幸せであるのなら、先進国では、不幸という言葉はとっくに死語になっているんじゃないでしょうか」
 昼が近付く。暑くなってきた。建物に入ることにした。昨夜は気づかなかったが、試験場の建物はコの字型になっていた。正面玄関から入って右側に食堂、厨房、便所、浴室がある。左側に二三十人が受講できる教室が二つ。中庭をはさんでゲストルームが三部屋。農業試験場の職員の住居は教室とゲストルームの間にあった。
 派遣員がまだ何か話そうとした。場長がそれをやんわり制して、
「そろそろ昼食の時間だ。皆さんお腹がすいたでしょう」
と土岐を食堂に誘導した。
 朝食とまったく同じものが食卓に並べられていた。
 食事中も派遣員の講義は続いた。