「いまではそれはそれでよかったと思ってる。その後も事務所内で二人だけになると互いに下着の中に手を伸ばし、ディープキスを交わすようになったが、一年ほどして彼女は現地の男と結婚した。残念という思いもあったが、一度じゃれあっているところをキスケンシュノショに目撃されているんで、ほっとした気分の方が勝っていた。それ以降、彼女と目線を交わすと、言いようもない複雑な感情に襲われるようになった。彼女が幸せかどうか気になる。一方で気にしてはいけないとも思う」
と言いながら顔を下に向け、
「ゴンゲイガウがI kill youの送信者であっても不思議ではない。こちらは悪いようにした覚えはない。彼女は棄てられたという思いが強いかも知れない。休日に駅の近くの動物園で遊んでやったりレストランで高級料理もひそかに食べさせてあげたりもした。しかし、それはこちらも楽しんだのだからお互い様だ。彼女が両親の勧めで結婚するときには、ちょっとした金額をお祝いにプレゼントした。口止め料の意味もあった。そうしたこちらの行為が彼女を苦しめたと考えられないこともない。だが彼女もコック同様パソコンを操作できるとは思えない。携帯電話も持っていない。彼女はいまでも昔あげた安物の指輪をはめてる。それをみると声をかけたくなる。しかしかけてはいけないとも思う」
 長谷川の告白は続く。土岐がうんざりしているのに気付かない。
「先日、邦人会のパーティーがここの事務所で開催された。大使館、金融機関、企業家などの関係者が十数人集まった。ゴンゲイガウも飲み物やカナッペを厨房から運んできて、それなりに接待の役割を果たしてた。所長と大使が話しこんでいる脇をゴンゲイガウが重そうなトレイを掲げて通り過ぎようとしたとき所長の膝が折れ曲がり、テーブルの上にドリンクを並べ始めたゴンゲイガウの突き出たお尻の割れ目になめらかに滑り込んだのを目撃した」
と目を大きく見開き、