「もう一つ思いだしました。昼間、農作業を終えて、草の上に寝転んで昼寝する。草いきれが体を包んで、ときおり、そよ風が小川の冷気をかすめ取って、頬を打つ。そんなときもこのまま死ねたらと思う。ついでにもう一つ。夕方、汗を洗い流すついでに、近くの川の流れのゆるやかな澱みで、泳ぐんです。泳ぎ疲れるとそのまま寝てしまう。浅瀬に流れ着くと、水の流れが体全体を嘗め回して、耳元で囁く。体が水に溶け、意識だけが川に浮かんでいる状態。こんなときもこのまま死ねたらと思う。こういう思いに頻繁に駆られるようになったのは、ここにきて初めてなんです。だからいつまでもここに居たいと思うんです」
と言うと派遣員はいつまでも黙り続けた。寝ているのかと時々傍らを見たが眼は開いていた。
不意に、
「ゴンゲイガウさんはお元気ですか?」
と派遣員が聞いてきた。突然の脈絡のない質問だった。
思わず聞き返そうとした。土岐は長谷川の事務所で挨拶をしただけだ。ゴンゲイガウをよく知らない。
派遣員は土岐の返答を期待していないようだった。
「この国に来た日の夜、たまたま長谷川さんの会社の事務所でパーティーがあって、所長さんに招かれたんです。そのとき、彼女に一目ぼれしちゃって、コックの方に、『彼女は独身か?』って聞いたら、ほんとうか、嘘か、冗談かわかりませんが、『俺の女だ』って言うんで、すぐあきらめたんですが。彼女みたいなのが好みなんです」
と語る派遣員の表情を読み取ろうとした。薄暗くて、派遣員の言う意味を理解することは出来なかった。
「彼女は去年結婚したそうです」
と土岐は長谷川から聞いた話を簡単に伝えた。
「そう言えば、そのとき、長谷川さんはおられなかった」
「出張でどこかに行っていたんですかね」
「開発銀行の行員の奥さんもお元気ですか?」
「牛田夫人ですか。ちょっとお会いしただけですけどお元気そうで」
「牛田さんというんですか。彼女とっても親切で、チャーミングでパーティーのあった翌日の晩、自宅に招待してくれて、ご馳走してもらいました。でもご主人もそうだったけど、酒癖が悪くて、ご主人が飲みつぶれた後、食堂で泣かれて、抱きつかれて閉口しました。彼女、なにか悩みがあったみたいですね」
と言うと派遣員はいつまでも黙り続けた。寝ているのかと時々傍らを見たが眼は開いていた。
不意に、
「ゴンゲイガウさんはお元気ですか?」
と派遣員が聞いてきた。突然の脈絡のない質問だった。
思わず聞き返そうとした。土岐は長谷川の事務所で挨拶をしただけだ。ゴンゲイガウをよく知らない。
派遣員は土岐の返答を期待していないようだった。
「この国に来た日の夜、たまたま長谷川さんの会社の事務所でパーティーがあって、所長さんに招かれたんです。そのとき、彼女に一目ぼれしちゃって、コックの方に、『彼女は独身か?』って聞いたら、ほんとうか、嘘か、冗談かわかりませんが、『俺の女だ』って言うんで、すぐあきらめたんですが。彼女みたいなのが好みなんです」
と語る派遣員の表情を読み取ろうとした。薄暗くて、派遣員の言う意味を理解することは出来なかった。
「彼女は去年結婚したそうです」
と土岐は長谷川から聞いた話を簡単に伝えた。
「そう言えば、そのとき、長谷川さんはおられなかった」
「出張でどこかに行っていたんですかね」
「開発銀行の行員の奥さんもお元気ですか?」
「牛田夫人ですか。ちょっとお会いしただけですけどお元気そうで」
「牛田さんというんですか。彼女とっても親切で、チャーミングでパーティーのあった翌日の晩、自宅に招待してくれて、ご馳走してもらいました。でもご主人もそうだったけど、酒癖が悪くて、ご主人が飲みつぶれた後、食堂で泣かれて、抱きつかれて閉口しました。彼女、なにか悩みがあったみたいですね」


