土岐もそれに呼応する。瓶に少し残っていたビールをグラスに注ぎカラにした。カラ瓶を少女の前に置いた。
「おわったよ。片付けて」
と派遣員は彼女に後片付けを促した。
彼女は喉の奥が見えるほど大きな欠伸をした。立ち上がった。食器を重ねあげる。背伸びをする。テーブルを雑巾で拭き始めた。
彼女を食堂に残し、ふたりで通路に出た。
「地元の農業指導員を養成する教室を見てみますか?」
と派遣員は通路を隔ててむかいにある教室の中に入っていった。
薄暗い蛍光灯の明かりの下に二人がけの机が十数台あった。小さな黒板には、稲妻のような無数の罅割れが走っていた。教卓の脇の小さな二段の本棚には背表紙の擦り切れた本が各段にそれぞれ二十冊程度、相互にしなだれて並んでいた。
「生徒は全国からくるんですが、受講料は無料ですが、交通費と食費は自前なので、滞在期間はせいぜい一ヶ月ほどで、文盲に近い受講生もいるんです。でもかれらにとって地域の代表に選ばれることは名誉で、しかも知らない土地へ旅行ができることは、楽しみのようです。地方の地主の子弟が多いのが現状です。なかには村民の期待を集めた小作の代表のような賢い生徒もいるんですが、肥料の配合を教えてもそれを購入するカネのない連中が多いんです。みんなで交通費と食費を負担するのが精一杯なんでしょう」
と拳で黒板を軽くたたき、
「村長が地方政府に肥料購入の補助金を申請するようですが、賄賂を払えないので、なかなか貰えないみたいです。地主の子弟は小金持ちだから、賄賂も払えるし、自前で購入することもできるんですが、土壌や水質が地方によってまったく違うので、かりに教えたとおりにやったとしても、必ずしも、うまくいくとは、限らないようです」
と派遣員は講義口調で懇々と解説した。黒板の上方のコンクリートの壁に二十ポほどのワープロ印字で、
〈雨ニモマケズ風ニモマケズ〉
の詩が掲示されているのに気づいた。土岐が理由を訊いてみると、
「おわったよ。片付けて」
と派遣員は彼女に後片付けを促した。
彼女は喉の奥が見えるほど大きな欠伸をした。立ち上がった。食器を重ねあげる。背伸びをする。テーブルを雑巾で拭き始めた。
彼女を食堂に残し、ふたりで通路に出た。
「地元の農業指導員を養成する教室を見てみますか?」
と派遣員は通路を隔ててむかいにある教室の中に入っていった。
薄暗い蛍光灯の明かりの下に二人がけの机が十数台あった。小さな黒板には、稲妻のような無数の罅割れが走っていた。教卓の脇の小さな二段の本棚には背表紙の擦り切れた本が各段にそれぞれ二十冊程度、相互にしなだれて並んでいた。
「生徒は全国からくるんですが、受講料は無料ですが、交通費と食費は自前なので、滞在期間はせいぜい一ヶ月ほどで、文盲に近い受講生もいるんです。でもかれらにとって地域の代表に選ばれることは名誉で、しかも知らない土地へ旅行ができることは、楽しみのようです。地方の地主の子弟が多いのが現状です。なかには村民の期待を集めた小作の代表のような賢い生徒もいるんですが、肥料の配合を教えてもそれを購入するカネのない連中が多いんです。みんなで交通費と食費を負担するのが精一杯なんでしょう」
と拳で黒板を軽くたたき、
「村長が地方政府に肥料購入の補助金を申請するようですが、賄賂を払えないので、なかなか貰えないみたいです。地主の子弟は小金持ちだから、賄賂も払えるし、自前で購入することもできるんですが、土壌や水質が地方によってまったく違うので、かりに教えたとおりにやったとしても、必ずしも、うまくいくとは、限らないようです」
と派遣員は講義口調で懇々と解説した。黒板の上方のコンクリートの壁に二十ポほどのワープロ印字で、
〈雨ニモマケズ風ニモマケズ〉
の詩が掲示されているのに気づいた。土岐が理由を訊いてみると、


