アイキルユウ

「それでも書けというので仕方なく、よくわからない理由が自分でもよくわからないと書いたら、その先生はこめかみに切れそうな青筋を立てて、『わたしをおちょくっているのか。教員をなめるなよ』と本気で怒りだしたんです。また、中学校の国語の先生は、『お宅のお子さんは、ひょっとしたら言語障害じゃないか』と母に言ったそうです。うまく表現できないというのは国語だけじゃなくて、たとえば高校に進学するとき自分の学力から偏差値の低い農業高校を志望したんですが、そのとき進路指導担当の先生が放課後、進路指導室に自分を呼びだして、『なぜ、この農業高校を志望するのか、その理由は?』と訊いたんです」
と煙草の灰を空いた皿に叩き落とし、
「答えようがなかったもんで、とりあえず、『その農業高校に入学して、一生懸命勉強したいからです』と答えると、その先生は、急に烈火のごとく怒りだして、『だから、それは、なぜなんだ、と聞いているんだよ!』と廊下に聞こえるほどの大声で問い詰めるんです。とうとう最後まで答えられなかったもんで、先生が志望理由の欄に、〈国内農業は危機的状況にあるので家業の農業を継ぐため〉と書くように指導してくれたこともありました。たしかに、家の裏山には猫の額ほどの畑はありましたが、うちで食べる分だけで、父親は十年前から持っていた田んぼを売った近くのセメント工場に勤めていました」
 派遣員は少し酔ってきていたようだった。時々、呂律が回らなくなっていた。
 場長はつまらなそうな目付きをしている。鶏の蒸し焼きと野菜炒めを素手で食べていた。
 派遣員は話を続けた。
「先週末だったか、このあいだの電話で、一等書記官の加藤さんが、『三年目からカネを出さなくなったことへの恨みなのか』とわけのわからないことを言ってました。他にもいろいろ言ってて、彼が苛立っているのが段々わかってきたもんで、『そう言われてみれば、そうかも知れないです』とどう答えていいかわからなかったので、適当に答えたら、『それでは、カネさえ出せば、授賞式に来てもらえるのか』と理詰めで、退路を断つような訊かれかたをしたので、『実際におカネを貰っていないので、なんともわかりません』と返事をしたらキレたようです。受話器を叩きつけるような音がして電話が切れたんです」
と空いた皿の上でタバコの火をねじり消し、