それから不意に会話が途切れた。その間、派遣員は黙々とビールを舐めるように呑み続けていた。
場長は終始口を尖らせていた。
土岐は気まずい雰囲気を察知した。取り繕うように先刻の話題を補足することにした。
「小川さんが受賞に応じれば一等書記官の加藤さんの次の任地は欧米になるかも知れない。加藤さんはここにくる前は欧米を希望していた。また国際空港近代化プロジェクトの一括契約が取れれば、事務所長の川野さんは取締役として本社に残れるかも知れない。開発銀行の駐在員の牛田さんは初めての仕事らしい仕事にありつけるかも知れない。牛田さんはすることがなくて、毎日時間をもてあましている。事務員のショスタロカヤは本社での国際空港近代化プロジェクトの打合せで海外出張させてもらえるかも知れない。海外旅行はショスタロカヤの長年の夢だった。掃除婦のゴンゲイガウや料理人のキスケンシュノショは給料を上げてもらえるかも知れない」
と土岐は派遣員に圧力が掛かるように、口から出る言葉に任せた。所長が取締役になれるかも知れないという虚偽も含めて、いい加減な見通しを縷々開陳した。最後に心がすこしとがめた。
「でも、たとえ彼が授賞に応じたとしても、いま言ったことのすべてが、そうなるとは限らないかも知れない」
と言い添えた。それからビールを少し口に含み、派遣員の顔色を窺った。
派遣員はずっとテーブルの上に目を伏せていた。頬がだいぶ赤くなっていた。両切りのローカルシガレットを手にしていた。ゆっくりと煙草を口に運ぶ。その口を窄め、目を細めながら溜息を吐くように煙を吹きだした。
「一等書記官の加藤さんはきっと優秀な人なんでしょうね。このあいだ電話を貰ったんですが話が難しくてよくわからなかったんです。もっとも自分の頭が悪いからだろうけど。まあ学校の成績は良くなかったから。とくに国語が駄目で。作文や感想文はいつも下の方でした。自分の思ったことを素直に書くようにと先生に言われたけどどう書けばいいのか今でもわからないんです。遠足に行って何が楽しかったか。映画を見て何に感動したか。そういう課題を出されても何が楽しかったか、何に感動したか、よくわからないとしか書けなかった」
と思い出しながら煙草の煙で輪を作り、
場長は終始口を尖らせていた。
土岐は気まずい雰囲気を察知した。取り繕うように先刻の話題を補足することにした。
「小川さんが受賞に応じれば一等書記官の加藤さんの次の任地は欧米になるかも知れない。加藤さんはここにくる前は欧米を希望していた。また国際空港近代化プロジェクトの一括契約が取れれば、事務所長の川野さんは取締役として本社に残れるかも知れない。開発銀行の駐在員の牛田さんは初めての仕事らしい仕事にありつけるかも知れない。牛田さんはすることがなくて、毎日時間をもてあましている。事務員のショスタロカヤは本社での国際空港近代化プロジェクトの打合せで海外出張させてもらえるかも知れない。海外旅行はショスタロカヤの長年の夢だった。掃除婦のゴンゲイガウや料理人のキスケンシュノショは給料を上げてもらえるかも知れない」
と土岐は派遣員に圧力が掛かるように、口から出る言葉に任せた。所長が取締役になれるかも知れないという虚偽も含めて、いい加減な見通しを縷々開陳した。最後に心がすこしとがめた。
「でも、たとえ彼が授賞に応じたとしても、いま言ったことのすべてが、そうなるとは限らないかも知れない」
と言い添えた。それからビールを少し口に含み、派遣員の顔色を窺った。
派遣員はずっとテーブルの上に目を伏せていた。頬がだいぶ赤くなっていた。両切りのローカルシガレットを手にしていた。ゆっくりと煙草を口に運ぶ。その口を窄め、目を細めながら溜息を吐くように煙を吹きだした。
「一等書記官の加藤さんはきっと優秀な人なんでしょうね。このあいだ電話を貰ったんですが話が難しくてよくわからなかったんです。もっとも自分の頭が悪いからだろうけど。まあ学校の成績は良くなかったから。とくに国語が駄目で。作文や感想文はいつも下の方でした。自分の思ったことを素直に書くようにと先生に言われたけどどう書けばいいのか今でもわからないんです。遠足に行って何が楽しかったか。映画を見て何に感動したか。そういう課題を出されても何が楽しかったか、何に感動したか、よくわからないとしか書けなかった」
と思い出しながら煙草の煙で輪を作り、


