アイキルユウ

「ゲストを手厚く歓迎するのは、この国の文化だ。受けた恩は必ず返す。徹底的なギブアンドテイクはこの国の美しい慣習だ」
と自国の文化を独善的に絶賛する。
「貴国からの派遣員の農業指導を非常に高く評価している」
と水車小屋の太い杵のように休むことなく話し続けた。
「耕運機は部品が一つだけ壊れて一年前から動いていない」
という話があった。それからは注意深く聞くことにした。
「半年前、ついでがあったので首都まで出向いて、現地政府に部品の輸入を申請したが、どうしても外貨割り当てがもらえなかった」と不平をもらす。しきりに同意を求めてきた。土岐は首肯した。
「僅かな金額なのに。この試験場は政治力がないから」
と場長は憤慨する。土岐を責めるような目付きをする。
「いつだったか、ミスター・ハセガワの事務所の所長にも頼んだんだが、『その部品は我が国のメーカーではもう生産していない』とか言って、どうすれば耕運機を動かすことができるのか、ということについて、納得のいく回答が得られなかった」
と浩嘆する。
 土岐は場長の言うことがわかっても、わからなくても、適当に相槌を打って聞いていた。
 いい加減に聞いていることを察知したのか、やがて場長は褒賞の話に触れてきた。
「この派遣員の褒章の話は知っているか?」
と黄味がかった怒気を帯びた目を大きく剥きだして訊いてきた。
「もちろん知っている。じつは今日はその話でも来た」
と土岐は硬い椅子に座り直した。背筋を伸ばし身を乗りだして答えた。
「お前はどう思うか?」
とさらに場長がにじり寄り問い詰めるようにして訊く。
「くれると言うのだから貰っておけばどうか」
と土岐は、強く答えた。
「しかし、本人は要らないと言う。何を考えているのか」
と場長は丸っこい肩を大きく落として落胆する。
「本人次第だが、本人がくれと言ったわけではないので、いらなければ、もらわなくてもいいのでは」
と土岐は曖昧な意見も述べた。話しながら要を得ていないことに気づいた。
 場長は、
「何を言っている」
というような不快な眼をした。
「しかし、貰ってくれれば、娘の婿として箔が付くし」
と傍らの派遣員に血走ったような大きな目をぎょろりとむける。
「おまけに、農業試験場の予算も増えるかも知れないし」
と未練ありげに付け加えた。