「でもこの子は結婚してもいいと言うんです。なぜいいのか理由は言わないんです。父親が勧めるからいいのか、ほんとにぼくが好きだからいいのか、それとも別にわけがあるのか。それとも、言葉は必要ないのか。この国では十四、五の女の子が親の言いつけで婚約することはよくあることなんですけど」
と派遣員は素手で自分の皿に野菜炒めを大皿の四分の一ほど取った。
「急ぐことではないし、自分も急がないし、この子も急がないようだし、早いほうがいいと言っているのは父親の試験場長だけだから」
と派遣員は野菜炒めを取るようにと大皿を土岐の方に動かして勧める。
そこに眉の太い、胸から下の胃のあたりから、下腹部全体が弧を描くように突き出た初老の男が廊下側のドアから入ってきた。
派遣員は即座に立ち上がった。その男を紹介した。
「こちら農業試験場長で、この女の子の父親です」
と儀礼的に言った。手を翻す。土岐の方に手のひらをむけた。
「あの耕運機の修理に、首都からはるばるやって来てくれた商社マンの友達で、調査事務所の所長さんです」
と紹介した。
場長は初対面の目付きで挨拶をした。
土岐は長谷川との関係を説明するのが面倒に思えた。初対面の挨拶だけを返した。
場長は椰子蟹のような肉厚の毛むくじゃらの手を差しだした。
「今まで村の寄り合いがあったので遅くなった。謝る」
と土岐に握手を求めてきた。
場長の英語は現地訛りが強い。その上早口だ。良く聞き取れなかった。身振りや手振りや表情や断片的に聞き取れる英単語から推測しなければならなかった。
少女が甲斐甲斐しく父親のグラスとビールを持ってきた。
場長は鷹揚に受け取る。手酌で立て続けに二杯飲み干した。
土岐が、
「酒を自ら進んで飲むということはイスラムではないのか、それともビールは酒の部類ではないのか?」
といぶかった。
場長は土岐のカラのグラスを見つめた。
「お前も遠慮しないで、どんどん呑め」
と野太い声で言う。待っていても注いでくれるわけではない。三人で手酌で一本のビールを代わる代わる注いで呑んだ。
場長は口の中にキュービックアイスを含んでいるような植民地英語でのべつ幕なしに喋り続けた。
土岐はほとんど聞き流していた。
場長は、
と派遣員は素手で自分の皿に野菜炒めを大皿の四分の一ほど取った。
「急ぐことではないし、自分も急がないし、この子も急がないようだし、早いほうがいいと言っているのは父親の試験場長だけだから」
と派遣員は野菜炒めを取るようにと大皿を土岐の方に動かして勧める。
そこに眉の太い、胸から下の胃のあたりから、下腹部全体が弧を描くように突き出た初老の男が廊下側のドアから入ってきた。
派遣員は即座に立ち上がった。その男を紹介した。
「こちら農業試験場長で、この女の子の父親です」
と儀礼的に言った。手を翻す。土岐の方に手のひらをむけた。
「あの耕運機の修理に、首都からはるばるやって来てくれた商社マンの友達で、調査事務所の所長さんです」
と紹介した。
場長は初対面の目付きで挨拶をした。
土岐は長谷川との関係を説明するのが面倒に思えた。初対面の挨拶だけを返した。
場長は椰子蟹のような肉厚の毛むくじゃらの手を差しだした。
「今まで村の寄り合いがあったので遅くなった。謝る」
と土岐に握手を求めてきた。
場長の英語は現地訛りが強い。その上早口だ。良く聞き取れなかった。身振りや手振りや表情や断片的に聞き取れる英単語から推測しなければならなかった。
少女が甲斐甲斐しく父親のグラスとビールを持ってきた。
場長は鷹揚に受け取る。手酌で立て続けに二杯飲み干した。
土岐が、
「酒を自ら進んで飲むということはイスラムではないのか、それともビールは酒の部類ではないのか?」
といぶかった。
場長は土岐のカラのグラスを見つめた。
「お前も遠慮しないで、どんどん呑め」
と野太い声で言う。待っていても注いでくれるわけではない。三人で手酌で一本のビールを代わる代わる注いで呑んだ。
場長は口の中にキュービックアイスを含んでいるような植民地英語でのべつ幕なしに喋り続けた。
土岐はほとんど聞き流していた。
場長は、


