アイキルユウ

「大学を卒業してからも、接触はなかったんですが、数年前にわたしが、調査事務所を立ち上げまして、そのとき、広告宣伝を兼ねて、大学時代の名簿を見ながら旧友すべてに挨拶状を出したんです」
「わざわざ日本から呼び寄せなくっても、と、思うんですけどね」
「なんか、来週外務大臣が来るんでその準備に忙しいらしくって、それに、わたしが数年ほど前に、この国に来たことがあるから、という理由で呼び寄せたようです」
「そのときは、何をしに来られたんですか?」
「首都の国有鉄道の電化計画のフィージビリティスタディです」
「ああ、聞いたことがあります。国鉄省の若手官僚の活躍で、その計画は潰れたらしいですね。担当はなんだったんですか?」
「財務分析です」
「ひょっとして国鉄省の財務部のストゥーパを御存じでは?」
「知っています。わたしのカウンターパートでした」
「じゃあ、亡くなられたことも御存知ですか?」
「いえ」
と言ったなり、土岐は絶句した。ストゥーパは土岐がこの国でただ一人、心を通わせた人物だった。
「どういう理由で亡くなったんですか?」
「自殺です。国鉄省の前の大木の枝で首を吊ったそうです。アメリカ留学の経験のあるエリートだったらしいんですが、国鉄電化計画に反対したことで、降格されて、窓際に追いやられたそうです。この国では自殺は滅多にないんで、ましてやエリート官僚となると、それで、ぼくのようなものでも耳にするほど話題になりました」
と派遣員はカラのコップをテーブルの上に置く。手のひらを三分刈りの頭の上に置く。その頭を軽く叩くとだしぬけに、
「ビゲンノラ!ディッシュ!」
と叫んだ。派遣員の目線がカラになったグラスにあった。何を疾呼したのか、土岐には皆目理解できなかった。
 暫くして、厨房に通じるドアを蹴飛ばして、浅黒い一三、四の少女が上目遣いに入ってきた。右手に鶏の蒸し焼き、左手にゴレンシの漬物と野菜炒めの皿を持っていた。艶やかな漆黒の長い睫と切れ長の眼で、白目の乳白さが印象的だ。痩せぎすで、九十ポンドもなさそうな体躯。五フィートぐらいの背丈。裸足の踝や手首が華奢な体型と比べて、不釣合いなほど大きく見える。
「農業試験場長の娘です。ビゲンノラといいます」
と派遣員が含み笑いで紹介した。
 少女はテーブルに皿を置いて、
「お会いできてうれしい」